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消費者問題

平成26年2月17日

10.企業のための消費者法 ―高齢社会への対応―

高齢社会と消費者トラブル

今回は、少し目先を変えて、高齢社会における消費者トラブルとその対策についてお話ししたいと思います。

我が国における65歳以上の人口は、2002年10月には2431万人(人口比19.0%)であったものが、2012年10月には3079万人(人口比24.1%)と増加しており、高齢者の単独世帯や夫婦のみの世帯数及び構成比も増加傾向にあり、過半数を占めています。また高齢者のうち、認知症の人や認知能力が低下している人が少なからず存在し、2012年の時点で、全国で65歳以上の認知症の人は約462万人、軽度認知障害(MCI)の人が約400万人いると推計されるとの調査結果も報告されています。

このような中、高齢者の消費者トラブルも急増しており、65歳以上の人を当事者とする消費生活相談は、全国において、2003年で13万9766件であったものが、2012年には20万7513件に増加しており、人口の伸び率以上に大きく増加しています。トラブルの種類としては、住宅リフォーム、健康食品の送りつけ、ファンド型投資商品や株・社債の販売などの詐欺的投資勧誘が上位を占めており、訪問や電話勧誘によるものが多く、100万円以上の被害額も、高齢者の層では比率が大きくなっています。

さらに、高齢の消費者の場合、視覚や聴覚など身体機能の衰えによる事故など、商品等により危害や危険に遭うことも少なくありません。

 

高齢消費者の見守りネットワークの提唱

このような消費者トラブルを防止し、高齢被害者の救済をするためには、単に相談体制(受動的なもの)の拡充や取締りの強化をするだけでは十分ではありません。基礎自治体である市町村が、介護保険制度で取り組まれている地域包括ケア実施のために構築されているネットワークや自治会活動などで高齢者の身近で活動している人たちに対して、継続的なつながりを持った形で、悪質商法やその被害状況などに関する注意喚起・情報提供を行うとともに、見守り活動に向けた研修等を行って、「見守り者」としての協力をしてもらい、それらの各機関、関係者が相互に連携した活動をすることが必要です。

即ち、高齢消費者に対する見守り活動のネットワークを通じて、高齢者に対する注意喚起を分かりやすい形で日常的に行い、被害を早期に発見して(被害等の徴候への「気づき」)、これを地域包括支援センター、消費生活センターや警察署に相談・通報し、実効的な解決策を求めて相談したり、関係機関が相互に連携し的確に対処できる仕組みづくりをして、このネットワークを実効的に機能させることが重要と言えます。

近時は弁護士会でも、高齢者の消費者被害予防と救済のためには、見守りネットワークづくりが重要であるとの認識に立ち、自治体へ向けて意見書や要請書を発したり、その構築へ向けた働きかけを各方面に行っています。かくいう私も、日弁連や大阪弁護士会において、その活動に従事している一人です。

 

事業者も含めた実効性ある高齢消費者見守りネットワークの実現へ向けて

おりしも消費者庁でも、地域の見守りネットワーク(「消費者安全の確保のための地域協議会」)の構築を推進すべく、今通常国会にける消費者安全法の改正に乗り出しました。

他方で、高齢者の権利擁護のための地域的な組織としては、介護保険法に基づく「地域ケア会議」が最近創設されて動き出そうとしており、高齢者の見守り面ではここが先駆的な活動組織といえますので、この「地域ケア会議」に、上記の「消費者安全の確保のための地域協議会」をうまく噛み合わせて活動させてゆくことが肝要です。

そして、この高齢消費者の見守りネットワークには、単に行政や警察、地域の人々だけが参画するのではなく、現にその地域で高齢者の身の回りで活動する介護事業者や給食事業者、新聞配達店舗、宅配事業者、郵便局、金融機関などの事業者も一緒に連携することによって、初めて実効的な見守りが達成できると思われ、先進的な地域では、現実にそのような形でネットワーク化が進んでいます。

もはや日本における全消費者の4分の1が65歳以上の高齢者になっています。事業者の皆さんは、社会の高齢化を意識に据え、消費者問題対応のネットワーク形成が進んでゆくことを念頭に置いて、事業展開することが必須だと言えます。

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