トップページ  >  連載  >  消費者問題11

消費者問題

平成26年3月26日

11.企業のための消費者法 ―丁寧さ、やさしさが競争力に―

見守られる人、見守る人

前回、高齢社会への移行により、高齢消費者の見守りネットワーク化が進むというお話しをしました。そして、このネットワークとしての見守り手は、行政や警察、地域の人々だけではなく、現に高齢者の身の回りで活動する様々な事業者の方が一緒に連携することによって、初めて実効的な見守りができると申し上げました。この局面で考えると、見守りの対象というのは高齢消費者であり、見守り手として活動するのは、高齢者の身の回りで活動する事業者という限定された関係として、捉えられることになりそうです。

しかし、この「高齢消費者」への「見守り」は、「社会の安全」に対する意識の高まりの現れであり、この動きが、今後、もっと大きな流れへと向かうことは間違いありません。

 

事業活動から保護されるべきもの

情報力や交渉力、経済力等の格差が存在する以上、消費者というものは、高齢者であると否とを問わず、事業活動からは保護されるべき対象であり(消費者契約法1条)、事業者に比べると弱者といえるでしょう。

他方、高齢者は、体力や認知能力などの衰えにより、弱者とされて保護の必要性が叫ばれていますが、その高齢者が消費者に占める割合は既に4分の1を超えており、今後益々その割合が高くなってきます。高齢者は、消費者が事業者に対して抱える弱点がより際だった存在であると言えますが、それがもはや特別の存在とは言えないほどに日本の社会は高齢化が進んでいます。そうすると、企業が遵守すべきスタンダードは、より弱い高齢消費者に照準を合わせるべきだということになりそうです。つまり、「よりやさしく、より丁寧に」です。

 

事業活動と消費行動

事業は、最終的には消費者を相手にするものであり、事業活動を担っている方々も一消費者であることに変わりはありません。

そして社会の意識も、企業を、単発的な購買先であるとか、商品やサービスの供給者として見ていた時代とは異なり、企業が消費者と共に、市民社会を構成する要員であり、企業も、現代社会が遭遇している種々の問題に対して、一定の役割を果たすべき責任があると考えられるようになってきています。そして消費者も、自らの商品選択という消費行動が、持続可能な社会の形成に貢献できる道を探ろうとしており、安全な社会に貢献する企業を発展させ、そうでない企業は消費行動によって淘汰するという流れを作ろうとしています。これを裏打ちしているのが「消費者教育推進法」の成立です。

 

事業活動を通じての「見守り手」に

「見守り」活動が想定されている、地域の安全確保のための「地域協議会」(消費者安全法改正案)も、地域の弱者看護のための「地域ケア会議」(介護保険法)も、共に「地域」を対象にしていますが、この「地域」における見守り活動が実効化されてくると、当然のことながら、当該地域に住む市民の、安全や安心に対する意識は高まってきます。つまり、直接的な地域の見守り手ではない、企業に対しても、その事業活動を通じて、社会の安全と安心に寄与すべく、一定の「見守り手」としての役割を求められることになるでしょう。それは消費者が、消費トラブルに巻き込まれないようにするための、より行き届いた配慮を意味するものであり、「よりやさしく、より丁寧に」ということになります。

 

具体的には、説明はきちんと行い、内容をわかりやすく説明することを心がける、文字の場合は大きな字でわかりやすい表現にする、商品は使いやすくするよう工夫し、安全面でも身体機能が衰えている人が使うことを標準とした仕様とする、そして消費者が気軽に相談できる窓口を作りそのことを周知させる、などの取り組みを行うことを提案します。

事業者としては「売れる」ことに力点を置いた営業活動をすることは当然ですが、それのみに専念するのではなく、「売り手としての見守り」をするのです。つまり、消費者が有効適切に商品やサービスを利用できるようにし、消費者に疑問を抱かせるような売り方はしないこと、疑問を抱いた消費者には適切に対応して疑問を解消する努力をする、ということです。

「これからは、よりやさしく、より丁寧なことが商品の付加価値になり、競争力を確保するキーワードになってゆく。持続可能な社会形成に貢献する、消費者に優しい企業が発展し、短期的な利益確保優先で消費者保護に疎い企業は淘汰される」方向に向かっていることを心がけてください。

top