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消費者問題

平成27年8月1日

15.企業のための消費者法 ―DNC/DNK 再説―

はじめに

前回、前々回と、電話勧誘拒否登録(Do-Not-Call)制度(DNC)と、訪問販売お断りステッカーなどによる訪問勧誘拒否(Do-Not-Knock)制度(DNK)について述べました。この両制度について、現在、消費者委員会では特定商取引法改正検討の専門調査会の中で議論がなされていますが、新聞業界を初めとして訪問販売関係業界からは強い反対意見が出ており、議事運営方法についてまでも、業界から担当大臣や総理官邸サイドに対してクレームがついて、それが週刊誌報道されるなど、場外乱闘の感を呈しています。

この制度改革は、業界側からは、それほど社会的影響が大きいと捉えられているようなので、もういちどこの制度について考えてみたいと思います。

現状の訪問・電話勧誘規制とその問題点について

特定商取引法では、訪問販売と電話勧誘販売において、契約を締結しない旨の意思を表示した者に対する勧誘行為を禁止しています(同法3条の2第2項、17条.再勧誘の禁止)。しかし、これでは勧誘開始前に、業者に接することなく勧誘を拒否することができず、一旦勧誘を受けてから個別に拒絶しなければなりません。

訪問や電話による不意打ち的な勧誘行為によって、消費者が不要・不本意な契約をさせられる被害が頻発し、悪質商法の温床にもなっていることは多数の消費者相談事例が示しています。特に自宅にいる機会の多い高齢者の被害割合が極めて高く、高齢化社会へ向かう我が国では、早急な対策が必要です。

また、訪問や電話という勧誘手段は、個人の生活領域に踏み込んでくるものであり、消費者が即時の応答を余儀なくされることから、私生活の平穏を害し、それ自体が迷惑であると感じられます。

オプトアウト規制としてのDNCとDNK

このような訪問や電話による勧誘の問題点に鑑みれば、消費者保護の観点からいえば、消費者の方から要請または同意があった場合に限って、業者は勧誘を行うことができるとするオプト・イン規制が望ましいと言えます。しかしオプト・イン規制は、訪問や電話による勧誘を原則禁止とし、要請等があった場合に例外的に許容するという強度の規制であることから、社会経済に与える影響が非常に大きく、現時点でこの制度を導入することは難しいのが実情です。

それゆえ、訪問や電話よる勧誘を予め断れる制度、即ち、予め包括的に拒否した者に対する勧誘を禁止する制度(オプト・アウト規制)を求めようとするのが、現在検討されている電話勧誘拒否登録(Do-Not-Call)制度(DNC)と、訪問販売お断りステッカーなどによる訪問勧誘拒否(Do-Not-Knock)制度(DNK)です。

世界的潮流のDNCと地域に根ざすDNK

DNCは、欧米などの主要先進諸国ばかりではなく、インドや南米、韓国、シンガポールなどで既に導入されており、拒絶登録を無視した電話勧誘を禁止し、違反した場合には行政処分や罰則の対象とするのが、世界的潮流となっています。経済大国、先進国といわれる日本で、DNCの立法化へ向けた議論がやっと始まったばかりであるのは、いかにも立ち後れの感があります。

他方、DNKは、オーストラリアや、アメリカの地方自治体で導入され、訪問拒絶ステッカーが貼られた家への訪問を禁止し、違反した場合には行政処分や罰則の対象とされています。我が日本においても、特商法3条の2による再勧誘禁止規定や、地方の消費生活条例による事前拒絶明示の場合の勧誘禁止規定(ただし、行政処分や罰則はない)を受けて、各地の消費生活センターや消費者団体などが訪問販売お断りステッカーを作成し、全国で相応の普及がはかられているという実績があります。

望まぬ勧誘を防止できる制度の必要性

DNCとDNKに対しては、経済界から、営業の自由に対する過度の規制であるとの反発が強く、悪質業者と健全業者を一律に規制し、健全業者の販売活動まで阻害するものだとの声が聞こえてきます。しかし、嫌だと拒絶する者に対して、営業活動をする自由などが本当にあるのでしょうか。生活の平穏を守りたい人の権利よりも、業者の経済的利益を守る方が優先するというのでしょうか。勧誘されたくないと、拒絶の意思を表明すると言うことは、その相手が悪質業者であるとか、健全業者であることを問いません。

消費者庁のアンケート調査によると、訪問勧誘や電話勧誘を受けたくないという人が回答者の90%を超えるようです。これだけ高率の人々が、望まぬ勧誘から、生活の静穏を守りたいと願っているのだとすれば、やはり、望まぬ勧誘を防止できる制度が、我が国でも必要なのではないでしょうか。業界エゴを脱して、人権を基本に据えた冷静な議論をすることを、新聞界に求める気持ちや切です。

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