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消費者問題

平成28年2月28日

18.企業のための消費者法 ―A事務所の景表法違反事件について―

消費者庁は、2月16日、全国展開するA法律事務所に対し、景品表示法4条1項2号に該当する違反行為として、措置命令を行いました。

A事務所は、自社のホームページに、キャンペーン期間と称して、その期間内だけ、90日内の無償キャンセル(着手金返還)に応じるとか、過払い金返還請求の着手金が無料又は値引きになるとか、過払い診断が無料になるとか、宣伝広告して、集客していたものの、現実にはその特典がキャンペーン期間内だけの限定ではなかったというものです。このような広告が、景表法が禁止する有利誤認表示(実際のものよりも著しく有利であると一般消費者に誤認を与えるもの)にあたるとして、消費者庁は、A事務所に対して、当該広告の禁止と、お詫びとお知らせの社告をするよう命じたものです。

要するに、期間限定サービスを謳って客を集めておきながら、実はその期間に関わらずに同じサービスが提供されていたという訳です。この広告については、各地の消費者センターにも苦情や相談が寄せられ、かなり前から問題視されていたようですが、約5年間にも亘って同様の広告が継続されました。長期間改善されない事態に、とうとう消費者庁もシビレを切らして調査に乗り出し、昨年8月から問題広告はされなくなりました。そして同年10月にA事務所が自ら、その広告の問題性を認めて新聞にお詫びとお知らせの広告を出したのですが、消費者を守るべき立場にある消費者庁は、事態を重く見て、今般、行政処分に踏み切ったのです。

A事務所は、債務整理や過払い金返還請求を主たる業務分野としていますが、他分野も手がけ、「景表法にも強い」ことを謳っていたようです(現在、ホームページからは削除されています)。景表法を取扱う法律事務所であれば、当然のこととして、虚偽の「期間限定サービス」広告が同法に違反することはわかっていたはずです。法律専門家である弁護士が、違法と認識しながら、長期に亘り集客のために有利誤認広告という消費者被害を招いたという事実は、誠に残念と言うほかありません。もしA事務所が、本当に上記広告の景表法違反を反省し、被害者や社会に対してお詫びをするのであれば、新聞広告よりも、違法広告をしていた自社のホームページにお詫びとお知らせを掲載するべきだと思うのですが、現在のところ、そのようなお詫びもお知らせも掲載されておらず、宣伝一色です。

今般、消費者庁が行った措置命令は、いつも閉店セールとか、開店特別サービスと銘打った営業をしている事業者にとっては、大変、重い警告となるでしょう。

事業者の皆さまには、是非、この点を認識していただきたいと思います。

しかし法曹界にいる人間としては、別の問題意識があり、本事例のように、行政機関によって、弁護士の違法行為が処分されるという事態が生じたことを大変憂慮しています。弁護士には高度の自治が認められており、弁護士に対する懲戒権も弁護士会だけが有し、行政機関には与えられていません。弁護士の監督責任は弁護士会にあります。つまり法律専門家としての自覚と、業界内の監督による自浄作用が求められているのです。

本件も消費者庁は早くに景表法違反を察知していたと思われますが、弁護士の広告問題は、一時的には弁護士会の所管として、様子を窺っていた(自浄作用を期待していた)可能性があります。

弁護士の広告は2000年に解禁され(それまでは禁止)、最近、ホームページで様々な広告を見かけますが、私から見ても、行き過ぎではないか(事実とは思えないような)広告もあります。今般の行政処分は、弁護士も弁護士会も、広告問題について、自浄作用が働くよう、心してゆかねばならないことを物語っています。

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