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消費者問題

平成28年5月10日

19.企業のための消費者法 ―消費者契約法・特定商取引法の改正について―

消費者契約法と特定商取引法の一部改正法案が閣議決定され、国会に提出されました。

消費者契約法は、事業者と消費者との間における取引一般に関する基本的な民事ルールであり、消費者と事業者との情報や交渉力の格差に鑑み、事業者からの不当な勧誘行為による契約の取消しや、不当な契約条項の無効等を規定しています。

今般の改正案は、消費者契約法が平成12年に公布されてから、初めての実体法改正の試みです。まず、契約の取消し面では、事業者が、高齢者の判断応力の低下等につけ込んで大量に商品を購入させた場合や、契約の目的物に関しない事項について不実告知がなされた場合(例えば、床下にシロアリがおり退治しないと家が倒壊するなどと嘘をつく)に、新たに取消しを認める内容になっています。また契約条項の無効面では、消費者の解除権を一切認めないとする条項(例えば、いかなる場合であっても契約解除できませんなどという条項)を新たに無効とするものです。

特定商取引法は、トラブルを起こしやすい消費者取引を、業態ごとに類型化して行政的に規律し、事業者による不公正な勧誘行為等を取り締まり、併せてクーリング・オフなどの民事ルールも規定している消費者取引法における重要基本法です。

今回の改正案には、業務停止命令を受けた会社の役員等が別法人を設立して同種の営業を継続することを禁止したり、業務停止命令の期間の最長を2年に延ばし、行政調査権限を強化するものなど、悪質事業者への対応を強化するものと、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売について、指定権利性を見直して規制対象を拡大すること等が盛り込まれています。

一番のハイライトは、訪問販売や電話勧誘販売に対する勧誘規制の強化(DNKやDNCの導入)でしたが、残念ながらこれらは事業者側の強い反対を受けて法案化は見送りとなりました。

今回の両法の改正案は政府(消費者庁)提案ですが、不当勧誘や不当条項の枠を拡大して、不当な契約による拘束から消費者の正当な利益を守り、悪質事業者への対応を強化するものであって、一定程度は評価できる内容であり、法案成立について与野党間の対立はないものと思われます。

ただ、頻発急増している高齢者の消費者被害に対しては、今回の改正法案は十分と言えるにはほど遠い内容です。

被害の発生源である訪問販売・電話勧誘販売に対しては、望まぬ勧誘を予め拒絶できるDNKやDNCを導入して、被害を予防できるようにする(悪質事業者と消費者を接触させない)ことが何より重要ですし、判断能力等の低下につけ込んで契約させられてしまったような場合は、量の多寡にかかわらず、不当勧誘として契約の取り消しが認められるべきであり、更に、不当条項による契約無効の類型ももっと充実させて、被害に逢ってしまった場合に救済を図れるようにすることが必要です。

日弁連では、先日、よりよい消費者契約法と特定商取引法にするために、更なる法改正に向けた全国的な取組みを開始しました。大阪弁護士会でも、独自に訪問販売お断りステッカーを作成して、府下の自治体と高齢消費者被害防止へ向けた連携を強化してゆくこととしています。

また、以前ご紹介したDNK/DNCの導入を求めた大阪府議会の意見書が拡がり、福岡県、大分県、兵庫県、堺市、福岡市、大分市、生駒市などの各地方議会でも、近時、高齢者の消費者被害の防止と救済に向けた法制度の創設を求める意見書が次々と採択されています。

今後も、消費者市民による法改正運動が展開されてゆくものと思われます。

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