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消費者問題

平成28年7月30日

20.企業のための消費者法 ―消費者庁などの移転問題―

東京一極集中を是正するべく、地方創生の観点から政府関係機関の地方移転が検討され、文化庁は京都に移転する方針が定まりました。京都は文化財が多くある観光地であり、文化行政とも関連性が深い上に、全国どこからでも比較的短時間でアクセスできることから、強い反対論は出ませんでした。もう一つの移転候補として消費者庁などの徳島移転が問題になっています。ただ、徳島と消費者行政との関連が不明なばかりか、交通アクセスが不便であり、消費者団体などから激しい移転反対論が巻き起こっています。

移転推進派の論拠は、単に地方創生の観点ばかりではなく、災害などで首都機能が失われることを想定して主要官庁を分散させることが必要であり、テレビ会議などの活用によりアクセス問題は克服できるというものです。

これに対して反対派は、産業育成を担う多くの中央省庁が移転せずに東京に残る中で、消費者庁だけを地方に移せば、司令塔機能や緊急事態対応、情報発信、監視の機能が低下し、国民生活の安心・安全が脅かされるといいます。

確かに、消費者庁は事業者と消費者という対立軸(本来はウインウインの関係だと思いますが、日本における現状は対立構造として捉えられています)の中に入って司令塔機能を担っています。一つの政策を実現するためには、業界の理解を得て説得するプロセスが必要であり、産業を育成する経産省、農水省、厚労省、国交省などを含めた調整なしには、消費者行政の進展や充実はありえません。消費者関連法の改正は毎年のようになされ、国会議員や政党にも多様な考え方があり、落としどころを探る話し合いは常に必要だといえるでしょう。また中国製冷凍餃子中毒事件のような緊急事態が起きたとき、素早く情報収集して対応することが地方にいてできるのか、テレビ会議等で全て代替できるのか、という懸念があります。

中央官庁が動けば、地方において、「仕事」や「人」の好循環に繋がり、東京一局集中を是正できるということは理解できます。経産省や財務省、厚労省などの大型主要官庁が移転すれば、その効果はあるでしょう。ただ消費者庁が、徳島に移転して、「仕事」や「人」の好循環に繋がるでしょうか。産業誘致になるでしょうか。かえって行政改革に反するコストのアップに繋がらないでしょうか。

まずは、やってみようという意見もあります。しかし、一旦移転したあとで、やはり消費者行政の機能を十分果たせないとして再度東京に戻ることになると、徳島の地盤沈下はかえって進む恐れもあります。それは、国にとっても、徳島にとっても国民(消費者)にとっても、不幸なことです。

因みに、特許庁、中小企業庁、観光庁、気象庁についても、誘致についてそれぞれ積極的な地方から手が上がりましたが、これらの諸官庁の移転は見送りになりました。いずれも担当大臣が、地方移転による行政機能低下を懸念し、移転に消極的だったことによります(私の眼には、担当大臣が、移転に消極的な官僚の意向を受けて、役所を守ったように映ります)。ところが消費者庁については、担当の河野大臣が移転に非常に前向きな姿勢を示しています。

地方活性化は大切ですが、建前論や情緒論ではなく、本当に「仕事」 や「人」の好循環に繋がるか、当該行政にとって機能の維持・向上が期待できるか、なぜ「そこ」なのか、をよく検討すべきでしょう。

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