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消費者問題

平成29年2月28日

22.企業のための消費者法 ―消費者安全確保地域協議会―

この連載№10で、「高齢社会への対応」として、高齢者の消費者被害が増加していることを取り上げました。高齢者の被害はその後も増加し、特殊詐欺に遭う事案も含めると、まさに激増していると言っても良いでしょう。警察庁も被害防止に乗り出し、迷惑電話防止装置の貸出し事業や、寸劇をまじえた啓発講座などが各地で盛んに行われていますが、被害を出さないためには、安心安全な街づくりをすることが第一であり、それぞれの地域で見守り体制を確立することが望まれます。

そのような現状に鑑みて、消費者安全法が改正され、昨年4月から自治体ごとに「消費者安全確保地域協議会」(11条の3)が設立できるようになりました(以下単に「協議会」と称します)。ここには見守り に関わる各種団体が、協議会に構成員を送り込んだり、消費生活協力団体(11条の7)として関与することになりますが、その中で注目すべきは、事業活動として見守りに関わる企業が現れつつあることです。事業者が見守り手になって地域社会に貢献し、消費者市民の信用を得るという、事業者と消費者とがウインウインの関係を築ける機会が一つできました。

例えば、お弁当や食材、新聞等の宅配事業では各戸を廻りますが、その際に届け先の様子がわかることがあります。地域協議会や見守りネットワークが創設されれば、市町村(協議会)が宅配事業者等と協定を結んで、宅配を通じて緩やかな見守りをしてもらうこともできるし、特に見守りが必要と思われる方には、協議会から協力団体に対して、年齢や症状に関する情報を渡して、重点的な目配りをすることも可能になります。

更に進んで、協議会がその自治体内で過去に被害に遭った住民の情報(いわゆる「カモリスト」)を消費者庁や警察から取得して、被害に遭った住民が重ねて被害に遭わないように見守りに役立てることもできるようになりました(11条の2)。ただし、この被害情報を扱う協議会事務従事者には守秘義務があるだけではなく、漏洩についての罰則もあります(53条。なお前項の協力団体には守秘義務はありますが、罰則 はありません)。この罰則付き守秘義務がネックにもなって、協議会を設置する自治体が増えていませんが(この原稿を書いている時点で全国で31市のみ)、カモリストを取得しないタイプの協議会も設置可能なのです。

また協議会は見守りネットワークとは別建ての組織にすることも可能です。協議会は、地域安全のための諸施策や重点見守り対象者のケアを担当し、見守りネットワークは、緩やかな見守り活動の現場を担当するという区分です。先進的に協議会設置を進めた滋賀県野洲市はこのタイプで活動しています。

いずれにしろ地域の実情に合った協議会を立ち上げてゆくことが、市の安心・安全を確保してゆくために有益です。既に福祉の分野では、介護分野でのネットワークや地域ケア会議などの機関が設置されていますが、協議会が立ち上がれば、福祉行政と消費者行政のマッチングが進みますし、社会福祉協議会や地域包括支援センター、自治会などを交えた地域連携が進み、最近衰えを見せている「地域の復興」にも繋がると考えられます。ただ、既存のこれらのネットワークや会議と重複しない工夫が必要であり、ある自治体などは、地域ケア会議と協議会を一体化 運営していて、参考になるといえます。協議会の設置が進み、地域が安 全で住みよくなるよう、その際には、事業者も見守りの一翼を担い、消費者とよりよい関係を築いてゆくことを望んでいます。

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