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消費者問題

平成29年5月16日

23.企業のための消費者法 ―新しい集団訴訟制度がスタート!―

消費者被害の拡大を防ぐため、国が認定した適格消費者団体が、消費者に代わって事業者に対し、不当な勧誘や契約条項の使用をやめるように裁判所に訴えを提起する「消費者団体訴訟制度」が2007年に始まり ました。それから9年以上が経過した2016年10月に消費者裁判手続特 例法が施行されることになり、今後は、消費者の財産被害の集団的な回 復のために、この消費者団体訴訟が活用されます。つまり、新しい集団 訴訟制度がスタートすることになったのです。

 

この訴訟制度は2段階型であり、担い手である特定適格消費者団体が原告となり、事業者を被告として、ある程度多くの消費者に生じた財産的被害について、事業者に責任があるかどうかを審理する「共通義務確認訴訟」(第1段階)を提起します。この裁判に消費者団体が勝って初めて、各被害者に通知を出し、被害者らがこれに参加してから、それぞれの被害者がその支払い対象になるかどうかを審理する「簡易確定手続」(第2段階)が裁判所で行われます。このように事業者の責任が確定してから被害者が参加する方式なので、裁判費用を出しても勝てるかどうかわからないという不安がなく、被害者にとっては被害回復のハードルが大きく下がることになります。また支払対象になるかどうかの審理をまとめて行うので、1件1件訴訟を行うよりも早く結論が出ます。

 

但し、この集団的被害回復訴訟の対象になるのは、消費者契約に関する金銭支払義務のうち、①契約上の債務の履行請求、②不当利得にかかる請求、③契約上の債務不履行による損害賠償請求、④瑕疵担保責任に基づく損害賠償の請求、⑤不法行為に基づく民法の規定による損害賠償請求、に限られており、また相手方は、消費者と直接契約を結んだ、或いは結ぼうとした事業者に限られています。従って、商品に問題があって損害賠償請求訴訟を起こす場合、対象はあくまでその商品を売った小売店だけであり、商品を作ったメーカーは相手にできないし、拡大損害や慰謝料も請求できません。

また、この新制度を利用できるのは、2016年10月1日以降になされた契約に限られます。

つまり、この制度に基づいて被害回復できる対象は、一定程度に制限されていると言うことです。

 

そして、この訴訟を起こすことができるのは特定適格消費者団体だけです。

民事訴訟は、通常は被害を受けた当事者だけしか提起できませんが、新制度では、特定適格消費者団体が、消費者に代わって訴訟を提起することができるようになった訳であり、この点は画期的といえます。

特定適格消費者団体は、適格消費者団体(この原稿を書いている時点では14団体)の中から、内閣総理大臣が法定要件を充たしたと認定するものがなれます。昨年末に東京の「消費者機構日本」(COJ)が第1号に認定されました。大阪の「消費者支援機構関西」(KC'S)も本年3月末に認定申請を行い、ほどなく第2号の認定がなされるでしょう。

このように集団的被害回復訴訟を担える特定適格消費者団体が誕生したことにより、いよいよ新しい制度が実質的にスタートしたといえます。

 

ただ、この新制度を運営してゆくには課題も残っています。

一つは、まだこれが国民に十分に知られていないことです。新制度は、被害に遭った消費者が自分で手を挙げて参加することで被害金が戻ってくるシステムなので、制度が広く活用されるためには多くの人に新制度を知って貰うことが必要ですが、現時点では国民への浸透性が十分とはいえません。

二つ目の課題は、特定適格消費者団体に十分な資金力があるとはいえないことです。消費者に訴訟参加を促すには、通知や公告の他に各地で説明会を開催する必要があり、そのための費用がかかりますし、また被害者からの問い合わせに対応する職員の人件費も必要になるし、訴訟を遂行する弁護士の費用もかかってきます。資金的な課題があると、特定適格消費者団体は、少額の被害者が多く散らばっている事案に取り組むことに躊躇せざるを得ず、新制度が本来想定した課題に適切に対応できないおそれがあります。

 

なお、この制度は日本版クラスアクションと呼ばれて、一部の事業者から懸念を持たれていますが、アメリカのクラスアクションでは誰が訴えを提起してもよく、判決の効果は被害者全体に及びますので、効果は絶大であり、企業活動への影響力も大きいといえるでしょうが、日本の集団的被害回復訴訟制度では、特定適格消費者団体だけが訴えを提起でき、被害者が自分で訴訟に参加しない限り判決の効果が及ばないものですから、この点が大きく異なります。またアメリカでは認められる懲罰的な損害賠償請求が、日本では認められていません。前述した課題などを含めて考えると、新制度にはアメリカにおけるクラスアクションほどには、企業活動に対する影響力はないといってよいでしょう。

まっとうな企業活動をされておられる皆さんは、恐れるに足りずということです。

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