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消費者問題

令和元年12月8日

28.事業者のための消費者問題 ―消費者契約法 新法施行3―

前回のつづき

これまで「取り消すことができる不当条項」(困惑類型)の追加について述べてきましたが、新法ではその他に、「無効とされる不当条項」も2種類新設されましたので、今回はその点について解説します。

従来は、事業者の損害賠償責任を免除する条項等(8条)と、消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等(9条)、消費者の利益を一方的に害する条項(10条)で、それぞれそのような契約条項があっても無効になる旨が定められていました。

 

無効とされる不当条項

新法では上記に加えて、(1)事業者に対し後見開始の審判等により解除権を付与する条項(8条の3を追加)と、(2)事業者が賠償責任の有無や限度を自ら決めることができる条項(8条と8条の2を改正)を無効とすることを追加しました。

(1)については、これまで定型的な契約条項に契約解除ができる例として、「破産や差押え、仮差押え、仮処分、成年被後見人、被保佐人の宣告や申立を受けたとき」と、並列的に規定されていた例が多くあったのですが、今後はこのような条項があっても後見開始、保佐開始または補助開始の審判を受けたことのみを理由として(例えば賃貸借)契約を解除することは認められなくなりました。

但し、後見開始を契機として個別に消費者への契約適合性の有無が検討され、客観的に合理的な理由があるときに契約解除に至ることはありえることであり、そこまで否定される趣旨ではありません。

また、消費者が事業者に対して物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものを提供する契約(例えば業務提供誘因販売)においては、民法が準委任契約における後見開始を委任終了事由としている(民法653条3号、656条)こととの整合性をとる見地から、後見等開始を契約解除事由としても無効にはなりません。

(2)については、これまで事業者に債務不履行や不法行為があり、または契約の目的物に瑕疵があった場合でも、その賠償責任の全部または一部を免除したり、消費者の解除権を放棄させる条項については、それぞれ無効とされてきましたが、新法はこれに加えて、事業者に賠償責任の有無や限度、また解除権の有無を決定する権限を付与する条項も無効としました。例えば、「当スポーツジムの利用に際し発生した事故に関しては、当スポーツジムが責任を負うべきものと判断した場合に限り、その損害を賠償いたします。」という約款があっても、賠償責任の有無や限度を事業者が自分で決められる建付けになっているので無効となります。従って、このような約款を掲げたスポーツジムで事故が発生し、ジム側が約款を盾にして賠償責任を負うべき事例に当たらないと主張したとしても、ジムの安全性確保に問題があったような場合は損害賠償請求が認められることになります。

但し、無効となるのは「損害賠償責任」の決定であり、その他の義務や責任の有無に関する決定権限を事業者に付与する条項があっても、本条の対象とならず直ちに無効とはなりません。その場合は、10条(消費者の利益を一方的に害する条項かどうか)の問題となります。

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