トップページ  >  連載  >  消費者問題29

消費者問題

令和2年2月9日

29.事業者のための消費者問題 ―消費者取引の適正化問題1―

消費者取引の範囲(前置き)

消費者取引の適正化問題を論じる前に、消費者取引とはどういう取引を指すのか、これまで論じてこなかったので、まずこの点をご説明します。

およそ取引と言われるものの中には、純粋な個人対個人のもの(C to C)、企業対企業のもの(B to B)の他に、企業(=商人)対個人のもの(B to C)があります。個人間の取引では民法が、企業の取引では相手が企業であれ個人であれ商法が、それぞれ適用されます。しかし、消費者取引とは、この最後のB to Cのみならず、「企業」の概念よりも広い、「事業者」という概念を用いて、事業者対消費者の取引全てを規律します。そこにいう事業者とは商人に限らず、法人・その他の団体の他に、事業としてまたは事業のために契約の当事者となる個人(例えば個人である貸家貸主)も含むことになります(消費者契約法2条1項)。従って、個人間で住宅を賃貸借する場合も消費者取引に該当することになり、その範疇は民商法にまたがる広範なものになります。他方で「消費者」の中に法人は含まれず、純粋な個人に限られるので(同条1項)、例えば住宅を借りる場合に、個人が借りる場合は消費者取引になりますが、会社が従業員用に借上社宅として借りる場合は、消費者取引には当たらないことになります。同じく人が住む家を借りるのに違いが出るのは、何となく違和感がありますね。

 

消費者取引の適正化に向けた議論

このような消費者取引については、その取引の全過程にわたって適正化が図られるべきだという議論が起こっています。EU加盟国においては、EU消費者法指令に基づいて、誤認惹起行為や攻撃的取引行為の23類型を消費者の意思を歪める不公正なものとして禁止する法律を制定することとなっており、順次そのような立法がなされていることはこの連載№16でご紹介したとおりですが、我が国においても、多くの都道府県における消費生活条例が、消費者取引の全過程をカバーする形で、即ち「契約勧誘」「契約締結」「契約内容」「契約履行」「契約解除・取消」の各場面で、不当な取引行為を禁じています。例えば、大阪府消費者保護条例第17条では、不当な取引行為を禁止するという明文が置かれ、同施行規則5条別表において、どのような行為が不当な取引行為にあたるのかについて、具体的詳細にリスト化されています。

このような不当取引行為の禁止を、EU諸国や都道府県の条例に倣って、国レベルの法律に高めようとする議論が起こっており、立法化へ向けた提言もなされています。具体的にどのような議論が起こっているかについては、次回に改めて論じますが、外国や国内条例でも禁止されている不当な取引行為が、国レベルでも規制されるべきという議論が起きてくることは当然の流れだといえるでしょう。

top