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相続

平成26年2月25日

1.相続が開始する前に準備すべきことは?

私は家事調停委員をしています。遺産分割調停で揉める事柄は、似通ったものが多いように思われます。これさえ気をつけておけば、揉めずに済んだのに、ということが多くあります。相続人らが揉めることなく、被相続人が形成した資産を、その死後に承継させていくには、周到な準備が必要です。

 

相続において最も重要なことは、財産の承継・配分についての合意です。自分が死んだ後、残された家族に対して、どのように配分するか。何が誰にとってどのように有用で、どう配分ことが適切かという点について、資産を残す人と残される人との考えが異なったのでは紛争のもとにもなりかねません。事前の意思疎通が必要です。

残す資産が多ければ相続税のことも考えねばなりません。相続税の支払資金をどのようにして確保するかという問題も生じます。法は、相続人や相続財産の属性に従って、各種の優遇措置や軽減措置のメニューを用意しています。この「節税」は、多くの人が興味を持たれるところですが、相続発生後に、残された人たちが考えたのでは不十分です。財産を残す人も、節税メニューを考慮した上で、資産承継のあり方を決める必要があります。

ところで、「ウチ」には、相続税のことなど考えねばならないほどの財産などない。相続紛争などというものは、資産家の話だ、と言う方もよくおられます。しかし、裁判所の統計によれば、家庭裁判所に遺産分割調停が申し立てられた件数のうち、遺産総額が1000万円以下の場合が30.9%です。5000万円以下まで広げると、実に74.2%になります。現行法上、遺産総額が5000万円以下では相続税もかかりませんが、遺産分割で揉める家庭の、実に4分の3近くが、相続税など支払わなくても良い家庭です

 

遺産分割で最初に問題になるのは、①「相続人は誰か」、②「何が遺産か(遺産の範囲)」です。実際には遺産分割手続きのかなりの部分が、この二つの確定に費やされます。①が問題になることはそれほどないのですが、②は問題にならないことの方が少ないくらいのものです。

この二つが確定できない場合は、別途訴訟を提起してでも確定して頂かねばなりませんので、その訴訟が終わるまで、基本的に遺産分割はできません。私が弁護士として経験した範囲で、遺産分割に一番時間がかかった事案では、40年以上を費やしたというものがありました。揉めなければ、各相続人はかなりの資産を取得して、悠々自適の生活を送れたはずなのに、紛争だけで一生を終えた人も多かったという、悲惨な結末でした。

 

これらの紛争を予防するために有効な手段が遺言です。遺言をするには自己の財産を正確に把握し、誰に何を残してやるのかを正確に決定する必要があります。手始めに、いわゆる「エンディングノート」を作成しておいて頂ければ、プロジェクトの発展段階を正確に示すことができますし、相続の際の「証拠」にもなります。また、想いも伝わります。

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