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相続

平成26年6月30日

4.生命保険と相続(税)

今回は、誰もが一つは契約していると思われる生命保険の話です。

 

被保険者死亡により支払われる生命保険金は、保険契約者、被保険者が被相続人であっても遺産ではなく、受取人の固有財産になるとされています (最高裁判例)。つまり、相続の場合、受取人である相続人は、「生命保険金+遺産に対する相続分」を取得することになり、生命保険金を受け取れない他の相続人から不公平ではないかという不満が生じた場合、紛争が生じ得ます。このような紛争はどのようにして防ぐことができるでしょうか

 

確かに、妻が受取人の場合には、この種の紛争はあまり生じません。それが当然だと思われており、他の相続人である子供たちも不公平感を持たないからだと思われます。

しかし、平等であるべき子供の誰かのみが生命保険の受取人になっている場合に、不公平感が生じるようです。

 

この点、実質的に見てあまりに不公平になる場合には、例外的に「持ち戻し」と言って、「遺産+生命保険金」を基準にしてそれぞれの相続人の相続分額を算定し、生命保険金の受取人は、この算定上の相続分額から貰った生命保険金を控除しても残額がある場合のみ、その残額を遺産から取得し得るという最高裁判例があります。この分け方によれば、算定上の相続分額よりも貰った生命保険金の方が多い場合、多い分を返せということにはなりませんが、遺産からは何も貰えません。

 

しかし、これは「揉めた後」の、それも極端に不公平が生じる場合の例外的救済の話ですから、まずは揉めないように事前の手当をしておくことが肝要です。

 

こういう揉め事は、例えば、被相続人が「遺産は全部子供Bに遺したい。その代わり、子供Aには生命保険金を遺してあるので、揉めないようにしてほしい。」と思いながら、遺言書を書かなかったために生じることが多いようです。

 

では、遺言を残せば防げるかというと、そうでもありません。

 

遺言を残してもAには遺留分があり、Aがその権利を行使すると、上記の例では、Aにも、法定相続分の半分は確保されることになっています。Aの取得する生命保険金額にもよりますが、多額な場合は、Aが平等以上に扱われることになり、Bに不満が残ることもあるわけです。

 

被相続人の上記の希望を叶えつつ、この種の紛争を完全に防ぐ方法としては、生命保険金の受取人をAにする際に、Aによる「遺留分放棄」を条件としておく、という方法が考えられます。「相続の放棄」は、本来、被相続人の生前には出来ません。しかし、家庭裁判所の許可を得れば被相続人の生前でも遺留分放棄ができます。事前にその許可を得た上で、遺産は全部Bに相続させるという遺言書を書いておけば良いということになります。

 

最後に、生命保険と相続税のことについても、一言触れておきます。民法上は、生命保険金が受取人固有の財産になるといっても、相続税の計算上は、「みなし相続財産」として相続税の対象になります。もっとも、「500万円×相続人数」は固有の非課税枠になっています。だから、同じ金額を遺すのであれば、現金や預貯金よりも生命保険の方が「節税効果」が生じます。また、生命保険を用いた節税方法は他にもあります。そのため、「節税のための生命保険」を提案される税理士さんや生命保険会社の方もおられます。

 

しかし、節税の計算はあくまで「相続人間で揉めない」という前提で成り立つものであり、相続発生時に揉めないという保証はありません。

また、「節税」といわれて反対する(推定)相続人は、あまりいません。「後のことは、自分たちで話し合えば何とかできる」と思ってしまうことが多いのです。しかし、環境が変われば人の意識も変わります。

 

それだけに「争族化」しない対策を冷静に考えておく必要があります。「誰に、何を、どの程度遺してやりたいのか」という被相続人の希望を中心に、後の「争族化」を避ける方途と、「節税」とのバランスを考えてその手段を検討することが重要です。

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