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相続

平成26年8月29日

6.寄与分と相続

今回は、寄与分についてお話しします。寄与とは貢献のことです。法律上、故人の生前の財産を増加させ、あるいは減らさないことに特に貢献した相続人がいた場合には、公平の観点から、遺産分割協議に際してその貢献を考慮することになっています。その際に考慮される相続分のことを寄与分といいます。

 

寄与した相続人がAの場合、Aの具体的相続分の計算方法は、

(遺産-Aの寄与分)×Aの法定相続分+Aの寄与分=Aの具体的相続分

となります。

 

例えば遺産総額が5,000万円、Aの法定相続分が1/4ですと、誰にも寄与分がない場合、Aの具体的相続分は1,250万円です。これに対し、遺産の5,000万円のうち、Aに500万円の寄与分が認められる場合、以下のようになります。

Aの具体的相続分は、

(5,000万円-500万円)×1/4+500万円=1,625万円となります。

 

もっとも、上記の例では「Aに500万円の寄与分が認められる」ということにしましたが、どういう場合に寄与分が認められるのか、どうやってそれを500万円と評価するのか、ということが大問題で、それが揉める素になります。

 

寄与分が認められるためには、「特別の寄与」でなければならないとされています。家族は助け合って生活していますから、「普通の寄与(貢献)」はお互い様だからです。しかし、家族として当然のことをしただけなのか、「特別の寄与」なのかを相続人の誰もが納得する形で区別することは、(衆目の一致する明白な寄与は別として)そんなに簡単なことではありません。法律には「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して寄与分を定める」と書かれていますが、これでは普通の人には判断が困難です。法律上は、まずは相続人間の協議で決めなさい、ということになっています。相続人間の公平の問題だから相続人が納得できるように決めなさいということなのでしょうが、相続人に決めろと言われても難しいのです。

 

また、上記の計算式から分かるように、寄与分を認めると他の相続人の具体的相続分は減少します。自分が損をしても構わないという判断をしろということですから、類型的に客観的判断自体が望みにくい分野です。それゆえ、寄与分を主張して認めて貰えなかった場合、認めて貰えなかった方には、損得勘定で認めてくれないのだという考えがよぎりかねません。それは感情的対立を生みかねません

 

寄与の方法に限定はありませんが、①「事業に対する労務の提供」(例えば、農業等の事業を営む夫を妻が無償で長年支えてきた場合など)、②「財産上の給付」(例えば、息子が、傾きかけた父親の事業に資金援助を行い、事業が持ち直した場合など)、③「療養看護」(例えば、妻や子が長年にわたり夫の療養看護につとめ、看護費用の支出を免れた場合など)といった類型があります。特に、①や③の類型で、「家族として当然の寄与」か「特別の寄与」かがよく問題になります。また、「療養看護」型の場合、一旦看護を始めてしまうと「手を引けない」状況ができてしまうことが多いので、看護している相続人と、していない相続人間で感情の行き違いも生じ易く、それが相続に際しての「寄与分」の主張の段階で爆発してしまうこともあります。

 

要するに寄与分は、「総論は理解できるが、具体論になると分かりにくく複雑になってしまう」分野なのです。

勿論、解決できないからといって放置はできないので最終的には裁判所が決めることになりますが、前提事項で揉めてしまった遺産分割協議は、やはりギクシャクしたものが残ってしまいます。

 

では、どうすればいいのでしょうか。

 

前回の「特別受益」のところでも述べましたように、寄与分も遺産分割協議を行う前提事項ですから、遺産分割協議を行わなくても良いように、遺言を残しておくことが有効だということになります。寄与分はあくまで遺産分割協議が行われる場合に、相続人間の公平を図るために考慮されるものですから、遺言の内容を拘束しません。遺言者は遺言の内容において、寄与分を考慮しても良いし、しなくても構いません。遺言そのものは、遺言者の財産処分の自由に基礎を置くものなので、基本的には相続人を公平に扱わねばならないという法的義務までは負わないからです。

 

仮に、相続人全員が、遺言の内容では寄与者に不公平だと考えるのであれば、寄与分を反映させた遺産分割協議を行えばいいということになります。ただ、この場合、相続人の一人でも「遺言書があるのだからそれに従うべきだ」と主張する人が出ると、結局遺産分割協議は成立しませんし、遺言書が存在するので、遺言書の内容に従うことになります。相続人全員が「遺言書には従わない」として別途の遺産分割協議を成立させるのなら、特に問題は生じないということになります。

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