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相続

平成26年11月1日

8.遺産の評価

今回は、遺産分割を行う場合の「遺産の評価」についてお話しします。

前回、「不動産の相続」において、その評価が問題になると申し上げましたが、評価が必要な遺産は不動産に限りません。例えば遺産の中に株式がある場合、上場株式は刻一刻と株価が変動しますので、いつの株価で遺産の価値を計算すればいいのかが問題になることはお分かり頂けると思います。

評価時点としてまず考えられるのは、被相続人が亡くなった日です。以前申し上げた「寄与分」や「特別受益」の問題を検討する場合は、相続発生時の金額が基準になります。それらが問題になるかもしれませんので、遺産分割調停を申し立てる場合は、相続開始時点における遺産評価額を記載することになっています。相続税も、相続開始時における遺産総額を基準に課税がなされますので、相続税の申告書に添付される遺産目録も、相続開始時を基準にしています。

では、遺産評価の基準時は「相続開始時」で統一されているのかというと、そういうわけでもなく、具体的な遺産分割を行う場合の、遺産評価の基準時は「分割時」です。何故かというと、例えば遺産として不動産と株式があるとして、相続発生時には共に1000万円と評価されていたとします。相続発生時を基準とすれば、不動産を相続しても株式を相続しても同じく1000万円の価値を取得することになります。しかし遺産分割がなかなか行われず、実際に遺産分割をする段階で不動産は値下がりして800万円、逆に株式は値上がりして1200万円になっていたとすれば、不動産を相続したものは実は800万円の交換価値を、株式を相続したものは同じく実は1200万円の交換価値を取得することになります。これでは不公平になるので、具体的な遺産分割に際しては、「分割時」を基準にするわけです。

もっとも「分割時」と言っても遺産分割協議が整ったその日と言うほど厳密なものではありません。評価に変化があったということでそういう資料も提出されたが、その後評価の変化に関する主張がなければ、その時の評価額を分割時の評価額にすると言った程度の意味です。

一度決まった相続発生時の評価金額は変更できないものと思い込んでおられる方もたまにおられます。しかし、誰も何も言わなければ、遺産分割調停の申立書に添付された遺産の評価額が、分割時まで変化がなかったものとして扱われますので、一言ご説明を申し上げておきます。

また、公平を期するために分割時を基準にしているわけですから、分割に際し、当事者全員で合意できる額を決めることができるのであれば、それはそれでも構わないということになります。例えば株価が乱高下を繰り返しているけれども一定の幅には収まっているというような場合に、適当な中間額で合意するというようなことが行われたりします。

次に評価の方法ですが、不動産に関しては、相続税の申告の場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で行うので、遺産分割調停の申立書にもその評価で記載されていることが多いようです(土地についても、固定資産税評価額が記載されている例もあります)。

しかし、相続税の場合は課税の公平の要請がありますので、評価方法を固定しておく必要があるのですが、遺産分割を行う場合は、「この方法でなければならない」というものはありません。要は、相続人全員が納得すればいいわけですから、相続人全員が合意できる評価方法は何か、ということに帰着します。ただ、それゆえに評価方法がなかなか決まらないことも多く、やはり合意可能な不動産評価方法の中心になるのは、調査が簡単で、公が評価している固定資産税評価額や路線価になります。ただこれらは一般に実勢価格より低額なことが多いということで、実勢価格を鑑定するのが最も実勢価格に近く、公平ではないかと主張される方もおられます。一般論としてはもっともな面もありますが、鑑定を行っても、その結果について「高過ぎる」「安過ぎる」と言っても良いのであれば話はまとまりません。かといって、鑑定結果を見てからでないと何とも言えないという場合もあります。また、時間が経過すると、その鑑定結果自体が「古くなってしまう」という問題もあります。鑑定がいけないというのではなく、折角費用をかけて鑑定を行うのであれば、費用負担をどうするか、全員が鑑定結果に従うという合意ができるのかどうか、鑑定結果に異議が出た場合にどうするか等を当事者間で事前に合意しておく必要があり、鑑定結果が出てから揉めたのでは何もならないということです。

株式の中でも、上場されていない株式については、取引価格がありませんので、評価が問題になります。税務署が用意している計算式があり、税理士さんは相続税の申告に際し、それを使って非上場株式を評価されます。鑑定を別にすれば、他に適切な方法が見当たらないことや、費用の問題、簡易とはいえ公的に認められた方法であるということで、多くはそれを用いるようです

骨董品などは、専門的になり過ぎますので、業者さんの査定書が用いられる場合が多いです。

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