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相続

平成27年6月1日

15.葬儀費用の負担問題

今回は、「故人の葬儀費用は誰が負担すべきか」の問題です。葬儀は、人が亡くなった後に行われますから、本来相続の問題ではなく、どのような規模、内容の葬儀を挙げ、費用を誰が負担するかは相続人が話し合って決めるべきことです。従って、話し合いが纏まれば問題は生じません。

ただ、話し合いが纏まらなくても、葬儀は「待ったなし」なので、実際には誰かが何らかの形で葬儀を執り行い、代金も支払っておくことになります。つまり、葬儀費用の負担の問題は、多くの場合、すでに支払われた葬儀費用を清算する場面で、誰が誰に幾ら請求できるのかという形で生じてくることになります。これは純然たる民事紛争であり、遺産分割の問題ではないことに注意してください。

ところで、上記のようなことが民事訴訟になってしまった場合、「葬儀費用を本来負担すべき人は誰か」に関する判例の傾向としては、「原則として」葬儀を実質的に主宰したもの、つまり喪主が葬儀費用を負担すべきであると判断することが多いようです。

葬儀費用は、葬儀社等に対する債務として発生しますし、葬儀社と契約するのは葬儀の主宰者である喪主であることが普通なので、「原則として」喪主負担というのは、契約法理からは難点の少ない結論だと言えます。特に、「香典」を喪主が取得している場合は、香典で葬儀費用等の大半を賄えることも多いので、その場合は実質的にも問題は少ないと言えるでしょう。

ただ、誰が喪主になるかについては慣習に従うことが多く、共同相続が原則なので、喪主だからと言って相続割合が多いわけではないこと、更に近時は「香典辞退」の葬儀も多いことなどを考えると、具体的事案によっては、喪主だと言うだけで葬儀費用を全部負担せよというのは不公平だという場合も生じます。判例も、喪主負担ではあまりに不公平な結論になってしまう場合は、例外的に「相続人全員で(法定相続分に従って)負担せよ」という判断を下すこともあります。

ただ、相続人が話し合って決める場合には、「喪主負担が原則」と考える必要はありません。香典を相当額頂いたような場合は喪主負担で合意ができることも多いでしょうが、相続人全員が法定相続分に従って負担しても構いません。例えば遺言で多くを相続する人がいる場合、その人が負担するという内容でも良いわけです。

ちなみに、相続税法では、「通常の葬儀費用」を相続財産から控除することを認めていますが、これはあくまで税法上の処理としてはそのように計算すると言うことに過ぎず、法律が「葬儀費用は相続財産から支出せよ」と規定しているわけではありません。この点を誤解して、「葬儀費用は法律で相続財産から支出することになっている」と思っておられる方もおられますので、一言申し上げておきます(勿論、相続人全員の合意として相続財産から支出するのであれば、何も問題はありません。)。

ところで、葬儀費用の負担に関して合意ができない理由にはいろいろなものがありますが、根本的な問題は、やはり喪主になる相続人と他の相続人間における信頼関係ができていないことが理由ではないかと思われます。葬儀には、短時間で規模や内容を決定し、実行せざるを得ないという特殊性があります。

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