トップページ  >  連載  >  相続20

相続

平成27年11月2日

20.祭祀財産の承継

今回は、例えば仏壇仏具やお墓など、先祖祀りに必要なものは誰が引き継ぐのか、という問題です。戦後の親族法、相続法の大改正により、「家制度」、「家督相続制度」は廃止されました。そのため、旧来は「家」を継ぐ家督相続人により代々引き継がれてきた仏壇仏具やお墓など祭祀財産の承継を、個人主義を基調とする新しい相続制度の下でどう考えるべきか、という問題が生じました。更に、近時においては、お墓の維持それ自体が困難となり、「墓仕舞い」の問題も現実化しています。そうすると、一体誰が「墓仕舞い」をすれば良いのか、も問題になってきます。

そこで今回は、これらの問題が、現行の法律上はどのように規定されているか、についてご説明致します。

民法第897条は、「系譜、祭具、墳墓の所有権」について「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」と定めています。「系譜、祭具、墳墓」が「祭祀財産」で、仏壇仏具(祭具)やお墓(墳墓)を例に挙げましたが、勿論、宗教や宗派により呼び名や形態はそれぞれ異なります。ちなみに「系譜」というのは系図のことで、いわゆる「過去帳」もこれに含まれるとされています。ちょっと変わったところでは、遺体、遺骨も「祭具」に準じて祭祀財産になると判断されています。実際、遺体や遺骨の取り合いが生じ、裁判所がそのように判断したものです。

「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」ので、遺産分割の対象にも相続税の対象にもなりません。相続税の対象にならないからと思われますが、近時は「金の仏像」や「金のおりん」も売り出されています。しかし、祭祀財産だから非課税なのであり、金の工芸品と判断されれば課税対象になります。また、あまりに高価な祭祀財産は、遺産分割の対象にならないだけに、その承継を巡って無用な紛争を生みかねません。購入するならこういったことも十分に考慮したうえで購入すべきであり、単純に「節税対策になる」と思い込むことは危険です。

もっとも、慣習に従うといっても、被相続人が祭祀承継者を指定した場合はその者が優先します。被相続人による指定もなく、慣習も明らかでない場合は「家庭裁判所が定める」ことになっています。

被相続人による指定方法に限定はなく、指定を受けるものの資格要件も特にありません。例えば、内縁の妻は相続人ではありませんが、内縁の妻が、「夫は生前、『俺が先に逝ったらお前が墓守をしてくれ』と言っていた」と主張し、裁判所に祭祀主宰者として認められた例があります。

被相続人が指定しない場合は「慣習」によることになりますが、この点、新民法施行直後の大阪高裁決定では、ここでいう慣習を、「家督相続的慣習ではなく、新民法施行後新たに育成される慣習である」としています。ただ、一般に「慣習」と言えば、「それまで継続していた行動様式」を考えますから、「新たに育成される慣習」などと言われても、普通の人に分かり易い考え方とは到底言えません。実際、実態としては、「それまで通り」、(長男さんがいる場合には)長男さんが祭祀承継者になる例が圧倒的に多かったと言えますし、基本的には今もそのような傾向が続いていると言えるでしょう。もっとも、遺されたご遺族間で合意ができるのであれば、長男さん以外の方を祭祀承継者にすることは勿論可能です。

ところで、以前、「葬儀費用の負担」についてお話しした際、「喪主」という言葉が登場しましたが、「喪主」とは「葬儀の主宰者」のことでした。「葬儀」も重要な「祭祀」の一つですから、現実の問題としては、まずは「喪主を誰にするか」という形で「祭祀主宰者は誰か」が問題になってきます。ただ、葬儀までに遺言書が開封されていないことも多いですし、諸々の理由で取り敢えず喪主となるべき人を決めて葬儀を行なうこともありますので、そのような「喪主」と、本来の「祭祀主宰者」が必ずしも一致しないこともあり得ます。

それでも誰が祭祀主宰者になるかが争われる場合は、裁判所に決めて貰うことになりますが、「祭祀主宰者」を裁判所に決めて貰わねばならないほどに揉める場合は、前記の遺体、遺骨の取り合いや、内縁の妻とその他の親族との争いの例が象徴するように、財産的争いと言うよりも、ほぼ「故人に対する心情」を巡る争いになるだけに、根が深くなります。たった1行の記載でそのような無益な紛争を防止できるのですから、遺言書を作成し、末尾に一行「祭祀主宰者の指定」を書き加えて頂きたいと思います。

なお、祭祀主宰者というと、何か面倒なことを引き受けさせられるように思われるかも知れませんが、祭祀を継続すべき法的な義務はありません。承継した祭祀財産を維持するかしないかについても自由に決めれば良いので、廃棄、売却しても構いません。冒頭に述べた「墓仕舞い」も、祭祀主宰者が決めれば良いことです。ただ、祭祀というのは伝統であり、文化ですから、法的観点のみによってドライに割り切れるものでもありません。

ですから、「墓仕舞い」を考える場合、関係親族の方々がおられるのであれば、その納得を得る方が望ましいし、場合によっては祭祀主宰者を交代することも考えるべきであろう、ということにはなります。

top