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相続

平成28年1月8日

22.相続人資格の競合

相続人に「順位」があることはご存じかと思います。整理致しますと、血族の関係では被相続人を基準にしてその「子」が第一順位で、「直系尊属」が第二順位、「兄弟姉妹」が第三順位です。先順位の相続人がいると後順位の相続は生じませんが、先順位の相続人が相続放棄をしますと後順位の相続人が繰り上がって相続人になります。同順位の血族相続人が複数存在する場合、それぞれの相続分は均等です。また、血族相続人の内、第一順位の「子」と、第三順位の「兄弟姉妹」が、被相続人よりも先に死亡していた場合には、「それらのものの子」が「代襲相続」すると定められています。

これとは別に「配偶者」は常に第一順位の相続人です。

具体的な相続におけるそれぞれの相続分は、残された配偶者と血族相続人の組み合わせで決まり、法律に規定されています。

例えば夫婦のうち夫が死亡した場合、被相続人に子がいれば、妻と子が相続人になります(法定相続分は妻が1/2、子が1/2)。子がいなければ被相続人の直系尊属(法定相続分は妻2/3、直系尊属1/3)、直系尊属もいなければ被相続人の兄弟姉妹(法定相続分は妻3/4、兄弟姉妹1/4)が相続人になります。

ところが、上記の身分関係があるものの間で養子縁組が行なわれますと、新たに法定血族関係が生じますので、これが配偶者関係や自然血族関係と交錯し、二重の相続資格を持つものが生じ得ることになります。

例えば兄が弟を養子にした場合、弟は兄の相続に付き、法定血族関係としての「子」と自然血族関係としての「兄弟」という二重の相続資格を持つことになります。ただ、この場合は、上記の血族相続人間の順位の問題がありますので、「子」として相続する限り、「弟」としての相続は生じません。

例外的に、相続資格の競合が生じる類型としては、次の場合があります。

(1)甲さんの子のAさんが、Bさんと結婚し、Bさんが甲さんと養子縁組した場合、BさんはAさんの配偶者であるとともに、兄弟姉妹にもなります。

Aさんが亡くなりますと、第一順位の相続人は配偶者としてのBさんとAさんの子になるわけですが、Aさんに子がなく、かつ第二順位の甲さんも既に亡くなっていた場合は、BさんはAさんの配偶者と第三順位の兄弟姉妹の地位を併有することになり、Bさんに相続資格の競合が生じます。

例えば、娘さんしかいない個人事業者で、娘さんが事業に興味がない場合、親が娘さんの夫と養子縁組をして、その夫(養子)に事業を継いで貰おうとすることは今でも時々あるようなので、あり得ない事案でもありません。

(2)甲さんが、孫のCさんと養子縁組をしていたが、Cさんの親(甲さんの子)であるAさんが先に亡くなり、次いで甲さんが亡くなった場合、Cさんは、甲さんの相続に付き、甲さんの養子としての地位と、Aさんの代襲相続人としての地位を併有し、相続人資格の競合が生じます。孫を養子にするということも見受けられることなので、これもあり得ない事案ではありません。

 

これらの場合、それぞれの相続資格に基づいて相続ができるのかどうかについて、先例では上記(1)の場合については配偶者としての相続分は取得するが兄弟姉妹としての相続分は取得しないとし(昭和23・8・9民事局長甲2371号回答)、上記(2)の場合はいずれの地位に基づく相続分の取得も認めるとしています(昭和26・9・18民事局長甲1881号回答)。

先例といっても古いものですし、残念ながらこれらの問題に関する直接の判例は見当たらなかったのですが、学説上は、養子縁組により法定血族関係が生じることを認める以上、このようなことは当然予定されたことであり、血族関係といっても法定血族関係と配偶者関係は別段排斥し合うものではないので、特に禁止規定を設けていない以上、いずれの場合も二重の相続人資格を認めるべきだという考え方が多いようです。

実はこの問題は相続放棄の場面でも現れてきます。例えば前記の兄が弟を養子にして、兄が亡くなった場合、「養子」としての相続権が優先していたわけですが、弟が養子としての相続人たる地位を放棄すると、順位が上昇して兄弟としての相続権が浮かび上がる場合が生じ得ます。その場合、再度兄弟姉妹として相続放棄手続きを採るべきかが問題になります。相続放棄の申述書には「被相続人との続柄」を書く欄があります。「子」が相続人である限り、「兄弟姉妹」は相続しませんので、まずは「子」としての相続放棄をするわけですが、そのまま放置するとこの問題が生じてくるわけです。先例は、養子としての相続放棄は兄弟姉妹としての相続放棄も含むとしています(昭和32・6・16民事局長甲第61号回答)が、判例(京都地判昭和34・6・16)は、養子としての相続放棄は、当然には兄弟姉妹として相続放棄したことにはならない、としています(ただ、具体的事案の解決としては、兄弟姉妹としての相続に関しても放棄する意思があったと認定して、兄弟姉妹としての相続放棄も認めたようです。)。

考えてみると、相続放棄をする場合、放棄をする側の気持ちとしては、例えば被相続人が債務超過であるため、そもそも相続から離脱したい場合と、養子なので子としての相続分までは望まないが、兄弟姉妹としての相続分くらいは欲しい場合があり得ます。後者の考えは認めないと言わねばならない理由もないと思いますので、上記判例のように、原則としては個別に考え、それぞれの立場における相続放棄手続きを行なうべきだと思われます。

上記のように、相続人資格の競合はそんなに生じる話ではありませんが、そういう事態が生じた場合、基本的にはそれぞれの地位に基づいて相続ないし相続放棄が可能だという前提で臨まれても大過はないと思います。

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