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相続

平成28年2月8日

23.相続人が行方不明の場合の遺産分割手続

遺産分割協議を行なう段階になって、相続人の中に行方不明のものがいるので困った、ということは時々あります。残りの相続人だけで協議するというわけにも行かず、そのままにされてしまう例もあるようです。今回は、このような場合、どのようにすれば良いのかについてご説明致します。

行方不明の相続人が未成年の場合は、親が法定代理人(親権者)ですので、親が行方不明の子を代理して遺産分割協議をすることが一応可能です。例えば離婚した母親が親権者で、父親(元夫)が死亡して相続が始まった場合などがその例です。ただ、以前申し上げましたように、上記の例で離婚していない場合は母親も(行方不明の)子も相続人ですので、遺産分割が利益相反行為になります。この場合は、まず母親が親権者として行方不明の子の特別代理人選任を家庭裁判所に申し立て、選任された特別代理人がその子の代理人として遺産分割協議に参加することになることも既に申し上げました。

では、行方不明者が成人の場合はどうでしょうか。特別代理人の制度はあくまで子が未成年の場合ですので使えません。この場合は、第一段階として、不在者と共同相続人の関係にある人(要するに遺産分割協議を行ないたい人)から、家庭裁判所に対し、「不在者の財産管理人」の選任を申し立てます。この申立は、不在者の財産の管理、保全に付き利害関係のある人からしかできませんが、共同相続人は利害関係人に該当します。ただ、この場合に注意して頂きたいのは、遺産分割協議を目的として不在者の財産管理人選任を申し立てる場合には、共同相続人は不在者の財産管理人になるべきではない、ということです。何故なら、同じく相続人の場合、親権者(法定代理人)と未成年が遺産分割に関しては利害相反関係にあったように、相続人としての不在者と他の共同相続人間にも、遺産分割に際しては利害相反の関係があるからです。その場合、民法上の自己契約ないし双方代理禁止の原則により、せっかく不在者の財産管理人になっても、結局遺産分割協議ができないことになってしまうのです。

共同相続人以外の人を不在者の財産管理人に選任して貰えたとして、第二段階として、その権限に注意する必要があります。不在者の財産管理人は、「管理権」は有していますが「処分権」はありません。遺産分割に即して言えば、遺産分割の調停や審判を申し立てることや成立させること自体は「処分行為」に該当しますので、越権行為になり、原則的にはできません。但し、他の相続人による申立があった場合、相手方としてその手続きに参加することは「管理行為」なので可能なのです。一般に遺産分割の必要があって、共同相続人から不在者の財産管理人選任の申立がなされる場合は、その共同相続人が遺産分割協議を行ないたい、あるいは調停や審判を申し立てたい場合ですから、不在者の財産管理人は、普通は、他の相続人が申し立てた遺産分割協議や遺産分割調停に参加し、話し合うことになります。ただ、前記のように遺産分割協議や調停を「成立させる」ことは処分行為なので、不在者の財産管理人は、そのままではその権限がないことになります。

ではどうするかというと、「家庭裁判所の許可を得る」ことになります。実際には共同相続人間で合意できた遺産分割協議書あるいは遺産分割調停案を添付して家庭裁判所の許可を申し立てます。ですから、事実上の合意ができる段階では、その合意は「不在者に関し、家庭裁判所の許可が得られることを条件とする合意」と言うことになります。

なお、現実問題として、当事者が行方不明なわけですから、その意思は確認できません。従って、遺産分割協議といっても、財産管理人から何らかの提案ができるわけでもなく、概ね他の共同相続人が話し合い、合意すればそれに賛否の意思表示をするという程度のものになります。財産管理人に選任された方にしてみれば、「あとから本人がでてきた場合、文句を言われないか。」という思いから、遺産分割への参加そのものを躊躇されることもあり得るわけですが、管理人には善管注意義務があり、不在者の財産(相続権もこれに含まれます)の管理を行なわないわけには行きません。本人に不利益をもたらさない限り(つまり、多くの場合は、法定相続分が確保されている分割である限り)、遺産分割協議は成立させるべきなのです(裁判所も、本人に不利益な内容でない限りは許可を出すはずです。)。

なお、不在者の生死が7年以上明らかでない場合には、家庭裁判所に「失踪宣告」を申出るという方法もあります。失踪宣告を得ますと、その不在者は一旦死亡したものと見なされますので、不在者の相続人が遺産分割協議に参加することになります。ただ、この方法は、不在者の生存が最後に確認されたのが何時であるか、誰が確認したのかを疎明する必要があります。最後に確認した人の協力も必要になり、結構面倒です。更に、失踪宣告が得られても、不在者の相続人が多数で、全国に散らばっていたりしますと、それ自体の問題も発生します。

従って、遺産分割協議だけが問題なのであれば、不在者の財産管理人を選任するという方法によるべきだと思われます。但し、前記のように「第三者」である必要がありますし、法的な判断が必要なことも生じ得ますので、弁護士のような専門家が適任だと思います。

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