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相続

平成28年10月18日

31.相続法の改正について(3)

今回は中間試案のうち、「配偶者の相続分の見直し」(増加させる方向)を取り上げます。見直しの契機は、高齢化社会の到来により、相続発生時における生存配偶者も高齢化し、生存配偶者の取得分を増加させる必要性が増加してきたのに対し、他の主たる相続人である子は既に経済的に自立していることが多くなり、配偶者との比較の上で、その要保護性が低下してきたことによります。以下では、子供と生存配偶者が相続人である場合を例としてご説明致します。

生存配偶者の相続分をどのように増加させるかについては、

1
死亡配偶者名義の資産のうち、結婚後増加した分を計算して、その増加分の一定割合(計算式が提案されていますが、ややこしいので省略します)については生存配偶者が当然に相続するものとして、これを、残余の遺産に対する従来の法定相続分(2分の1)に加算しようという考え方、
2
一定の期間(20年~30年)夫婦であったものについて、一方配偶者が、他方配偶者の法定相続分の増加(3分の2が考えられています)を選択できるようにするという考え方、
3
一定の期間(20年~30年)夫婦であったものについて、当然に生存配偶者の法定相続分が増加(3分の2が考えられています)するという考え方、

の3種が提案されています。

夫婦には、結婚後夫婦で形成したと考えられる財産があります。婚姻関係が長期にわたりますと、普通はこの夫婦で形成した財産も増えていきます。例えば夫名義でローンを組んで自宅を購入し、返済していった場合については、妻の寄与があればこそ返済できたと考え、自宅に関し、妻にも一定の権利があると考えられています。「離婚」の場合に、これが「財産分与」という形で現実化することはご存じだと思います。相続に関しては、これまではこの分も生存配偶者の法定相続分として纏めて考えていたのですが、これを別途計算しようというのが上記「1」の考え方です。

この考え方は、離婚の場合とも整合性がとれ、筋が通っているように思えますが、財産の所有名義人となっている配偶者が亡くなっているという状況で、「結婚後に形成された資産」を、他の相続人も納得するような形で確定できるのか、という問題があります。配偶者以外の相続人には夫婦のことは分からないからです。アメリカのように、結婚に際して「夫婦財産契約」を締結し、「夫婦の財産」と「個人の財産」を明確に分けるようにしている国なら良いのですが、日本のように、「夫婦の財布は一つ」という考えに慣れ親しんでいる国では、なかなかその区別が付けにくいのです。また、上記の例で夫名義の住宅ローンその他の負債が残っている場合、その借金も同じように考える必要がある、という問題も生じます。現在の制度下では、債権者は法定相続分に従って各相続人に債務の履行を請求しますが、妻が固有に負担する部分があると言うことになりますと、それが決まるまでは、誰に幾ら請求できるのかが決まらないと言うことにもなります。しかしこの問題で揉めますと、徒に時間がかかってしまいます。つまり理論上は筋の通った考え方であっても、実務的には難点が多いと考えられます。

そこで、従来と同じように、夫婦共有財産の清算も、「法定相続分」に含めて対応しようという考え方が出てきます。それが「2」や「3」の考え方です。婚姻期間の短い夫婦よりも長い夫婦の方が法定相続分を多くすべきだということになりますので、概ね20~30年間夫婦であったことを条件に法定相続分を増加させようということになっているわけです。

ただ、数十年間法律上の夫婦関係にあったとはいっても、例えば離婚はしていないが長期間別居を続けており、一方配偶者の資産形成に他方配偶者はほとんど関与していない夫婦もあります。これを無視して一律に考えても良いのか、ということが問題になります。

この点も考慮しようという考え方が「2」です。ただ、この考え方には「一方配偶者が他方杯数社の法定相続分の増加を認めたことをどのように公示するか」という問題や、「認めて貰えなかった場合の救済はあるのか」という問題、一旦認めてしまった後に事情が変わった場合、撤回できるのか、という問題などがあります。最初の問題は技術的なものとも言えますが、第二、第三の問題は、夫婦の実態に関わるだけに、揉めると、そのことで20年~30年続いた夫婦関係がぎくしゃくしてしまうということにもなりかねません。

そこで、そんなことは考慮しないようにしようというのが「3」の考え方です。シンプルなので分かり易いとは言えますが、当然、前記の「離婚はしていないが長期間別居を続けている夫婦」の場合にまで、配偶者の法定相続分増加を認めるのはおかしいのではないか、という疑問が生じます。

また、中間試案には記載されていませんが、そもそも夫婦の実体に即した財産承継を考えるというのであれば、遺言に委ねれば良いのであって、法定相続分で決めてしまうべきことではない、という考え方もあります。しかしこれに対しては、「法定相続分」というのは、遺言がない場合の遺産分割(協議、調停、審判)の基準となるべきものなので、「遺言に委ねれば良い」というのでは答えにならない、という批判もあります。

私見としては、簡便な「3」で良いのではないかと思っていますが、少なくとも20年~30年以上の長期間婚姻生活を続けている生存配偶者の、相続による取得分が何らかの形で増加することは、ほぼ間違いないようです。

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