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相続

平成29年4月7日

37.相続法の改正について(8)

今回は、「相続人以外のものの貢献を考慮するための方策」に関する改正中間試案についてのお話しです。

「寄与分」という言葉はご存じかと思います。「共同相続人中に被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるとき」に認められます(民法第904条の2第1項)。遺産分割をする場合、遺産の維持、増加に貢献した相続人がいる場合には、その相続人の相続分を、その寄与分だけ増やすことが公平だという観点で認められたものです。このように、寄与分という制度は「相続分の公平」を図る制度ですので、相続人にしか認められません。

他方、第三者が「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護」を行う場合は、それが仕事であったり、仕事とは言えない場合も、「対価」等を得る場合が多いでしょうから、一般的には、相続人以外の第三者に、「寄与分」のような特別な制度を設けなくても問題は生じません。例えば個人事業者が雇用する従業員、個人事業者に対する出資者、看護士、介護士などの方々をお考え下さい。

しかし、現実の社会では、相続人ではないが、被相続人と特別の人間関係があり、純然たる第三者とも言えない、いわば「隙間」に位置する方々がおられます。例えば被相続人のお子さんのお嫁さん、内縁の妻、あるいは密接な友人、親しい近隣の方々、などです。これらの方々は、例えば被相続人の療養看護を尽くしていても、対価を得ていない場合も多くあります。相続人がいない場合は、これらの方々も、「特別縁故者」(民法958条の3)として認められれば、相続財産の分与を受け得るのですが、相続人がいる場合は、これらの方は、被相続人が遺言により遺贈でもしておいてくれない限り、ほぼ報われないのです。

それは不公平であろうということで、「相続人以外のものの貢献を考慮するための方策」が検討されることになったのですが、「相続人以外のもの」としてどの範囲の方を対象にするかについては、①「二親等内の親族で相続人でないもの」に限定する、②「貢献の対象となる行為を無償の労務提供に限定する」という二つの考え方が提唱されています。①は、被相続人との一定の親族関係で範囲を限定しようとするもので、範囲の明確性は保たれますが、親族関係がないといけないと限定する必要はないのではないか、という疑問も生じます。②では、親族関係による限定はなされませんが、「無償の労務提供」に限定されます。そうすると、例えば内縁の妻や長男のお嫁さんなどは同居して生活費は被相続人が出しているという例が多いので、労務の提供は無償でも、自己の生活費の支出を免れている面を「無償」要件との関係でどう考えるか、といった問題や、家業を手伝っている場合に小遣い程度のお金を貰っていた場合に「無償」と言えるか、といった問題も生じるように思われます。勿論、これらの問題は具体的な立法段階でも議論されると思われます。

この貢献が認められた場合、これらの方が受け取る金額は、第一義的には相続人との協議で決めますが、協議が整わない場合は裁判所が決めるというのは、普通の「寄与分」の場合と同じです。

ただ、これらの方は相続人ではないことが前提となるので、遺産分割に参加して遺産を取得するという構成ではなく、相続人に対する、法定相続分に応じた請求権として構成されています。この場合、共同相続人の中に無資力の方がおられた場合にどうするかという問題が生じます。勿論無資力の相続人も遺産を相続しますので、そこから支払って貰えばいい、というようなものですが、遺産分割協議が成立したのかどうかは外からは分かりませんから、無資力の相続人が相続した遺産を他の債務の弁済のために費消してしまうと、実際問題として、回収はできなくなります。

そのため、上記の「貢献者」に、相続人が取得する遺産から優先的に弁済を受け得る制度(例えば遺産に対する特別な「先取特権」という担保物権を認めるというような制度)を設けるべきではないかという議論もあったそうですが、他方で、この「貢献者」に、無資力の相続人に対する他の一般債権者以上の権利を認める必要があるのだろうか、という議論もあり、遺産に対する優先権を認める制度を提案するところまでは行かなかったようです。

このように、新たな制度のもとでも、「相続人以外のものの貢献を考慮するための方策」はかなり限定的なものになりそうですが、一歩前進とは言えるでしょう。

なお、これと併行して、被相続人の療養看護に関し、それを「特別の寄与」とまでは言えない場合でも、療養看護をした相続人と、しなかった相続人の間に、遺産分割において差を設けるべきではないかということも議論されました。一般論としては「なるほど」という面もあります。ただ、これは「比較の問題」になりますので、各相続人各人の行った「療養看護」すべてを、協議ないし審理の対象にせざるを得なくなり、それらが争われることにより、協議ないし審理の長期化や、相続人相互間の根深い不信感を醸成してしまうのではないかということが危惧され、そのような制度の新設は見送られました。

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