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税制知っ得

平成24年12月12日

8.離婚の財産分与に税金はかかるのか

離婚する際には、財産分与がなされます。また、夫婦の一方に、不貞行為やDV等の離婚原因がある場合には、慰謝料も発生します。これらについて、税金がかかってくるのかというご相談をよく受けます。

【財産を分与する側にかかる税金】

まず、財産分与については、原則として贈与税はかかってきません。財産分与というのは、①夫婦の財産関係の清算、②財産を受け取る側の離婚後の扶養、③損害賠償等の趣旨でなされます。これらの趣旨を逸脱しない範囲内の額であれば、「贈与」という性質のものではないため、贈与税はかかりません。

ただし、以下の場合には、例外的に贈与税がかかってきます(相続税基本通達9-8)。

その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合

過当であると認められた部分について、贈与税がかかります。

夫婦関係を営む上での夫婦の貢献度は、通常2分の1ずつと考えられています。財産分与は、夫婦間の全ての事情を考慮してなされるものですから、厳密に2分の1ずつでなくても構いませんが、上記の3つの趣旨を考慮してもいずれか一方があからさまに多い場合は、問題になります。

離婚を手段として贈与税若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合

この場合は、離婚により取得した財産の価額全額が、贈与によって取得した財産となり、贈与税が課税されます。

離婚というのは、法律上の婚姻関係を解消させる意思があれば足り、離婚届を提出した後も事実婚状態を続けるつもりであっても、離婚自体は有効に成立します。これを利用して、課税を逃れるために、形式的に離婚し、財産分与と称して妻に財産を贈与するような場合を指します。1の過大な部分と違って、全額が贈与税の対象となるので気を付けてください。

財産分与の対象が土地や建物等の不動産である場合には注意が必要です。この場合は、財産分与者の側に譲渡所得税がかかってきます。

譲渡所得税は、土地や建物の売却価格から取得費用、譲渡費用等を差し引いて算出します。財産分与の場合、不動産の価格は、分与時点における時価で評価します(所得税基本通達33-1の4。不動産購入時よりも時価の方が低ければ、譲渡所得税はかかってきません。

仮に、財産分与で名義変更を行う際に、不動産購入時より時価が高ければ、先に離婚を成立させてから譲渡すると税法上有利です。以下の①及び②の優遇措置を適用することができるからです。通常の長期譲渡所得の税率は、所得税15%、住民税5%なのに対し、以下の②の軽減税率の特例が適用されれば、所得税10%、住民税4%ですから、大きな優遇措置です。

① 特別控除(租税特別措置法35条

居住用不動産を売却した場合、最高3,000万円まで控除が認められています。

② 軽減税率の特例(租税特別措置法31条、31条の3

居住用不動産を売った年の1月1日において、所有期間が10年を超えている場合には、税率が軽減されます。

①及び②を適用した結果、

不動産を売った収入金額―(取得費+譲渡費用)-特別控除(最高3,000万円)=課税長期譲渡所得金額

この課税長期譲渡所得金額(A)が、

○6,000万円以下の場合は、A×10%

○6,000万円を超える場合は、(A-6,000万円)×15%+600万円

で算出される金額が、所得税となります。

ちなみに、住民税は、

○6,000万円以下の場合は、A×4%

○6,000万円を超える場合は、(A-6,000万円)×5%+240万円

しかし、上記①及び②のいずれも、夫婦や親子等の関係では適用されません(租税特別措置法35条)。したがって、先に離婚を成立させる必要があるのです。

なお、20年以上婚姻関係を続けている夫婦間での居住用財産の贈与は、基礎控除110万円に加え、最高2000万円の配偶者控除を受けることができます(相続税法21条の6)。ですので、居住用不動産について、2110万円についてまで婚姻関係継続中に贈与し、それ以外の部分について離婚成立後に贈与すれば、税金の額は少なくてすみます。

【財産を受け取る側にかかる税金】

財産を受け取る人にかかる税金で問題になるのが、不動産所得税です。

不動産を取得した場合、固定資産課税台帳に登録されている価格に3%(土地、建物のうち住宅の場合。住宅以外の建物は4%)を乗じた価格が不動産取得税となります(一定の場合に、軽減措置あり)。財産分与の場合にも、これを非課税とする規定等なく、法律上はこのとおり課税されるはずです。

しかし、実際には、財産分与の夫婦の財産関係の清算という趣旨から、不動産取得税を課税しない取扱がなされています。ですので、上記1及び2の場合には、贈与税がかかるのと同様に、不動産取得税もかかると考えた方が良いでしょう。

なお、財産分与の場合でも、登録免許税や、取得後の固定資産税はかかってきます。

最後に、慰謝料ですが、これは、精神的苦痛ついての損害賠償ですので、非課税となります(所得税法施行令30条)。

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