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税制知っ得

平成25年5月31日

13.法人に対する遺贈

「○○を、A法人に遺贈する」という遺言を作成することがあります。法人に対する遺贈も認められていますが、これには様々な課税関係が発生してきます。

例えば、以下のような設定で、

被相続人:X

相続人 :長男A,次男B、三男C(この他に相続人はいないものとします。)

相続財産:時価6,000万円の土地(取得時価額は仲介料等込で5,400万円)

Xは、唯一の相続財産である上記土地を、長男Aが代表取締役兼唯一の株主であるA法人に遺贈する旨、遺言に残していたとしましょう。この場合の課税関係を考えてみます。

 

①Xが支払うべき譲渡所得税

(正確には、Xが支払うべき譲渡所得税をABCが確定申告し、結局はABCがこれを相続して支払うことになります(準確定申告)。)

Xは時価6,000万円の土地を5,400万円で取得していますので、差額の600万円に対して譲渡所得税が課税されます。Xが、土地を10年所有していたと仮定すると、

600万円×15%=90万円(所得税)

600万円×5%=30万円(住民税)

を支払うことになります(租税特別措置法第33条1 項)。

 

②A法人が支払うべき法人税

法人が他の法人や個人から資産を贈与されたことにより受贈益が生じます。これには法人税が課税されます法人税法22条2項)。

A法人には、土地の6,000万円の受贈益が生じます。A法人の所在地により、正確な法人税率(法人税・法人住民税・法人事業税の3税の合計を指します)は変わってきますが、概ね40%なので、これを前提に算出すると、2,400万円が課税されることになります。

 

③A法人が支払うべき贈与税

A法人は、6,000万円の土地を受贈したことにより、法人の株価が上昇するでしょう。その場合、唯一の株主であるAに対し、株価の値上がりした部分について、贈与税が課税されます。なお、株価は会社の規模によって評価の仕方が変わってきます。小会社(従業員数が100人未満の場合で一定の要件を満たす会社)の場合、1株あたりの純資産価額で評価するのが原則です(純資産価額方式、財産評価通達178,179)。

 

以上によると、それぞれ納税者が異なるとはいえ、全体として、合計2,520万円+贈与税の税金が発生することになります。

 

ところで、「遺留分」という言葉をご存知でしょうか。

これは、相続財産の中で、一定の相続人に留保されるべき割合を指します(民法1028条以下)。被相続人の子らは、遺留分権利者で、それぞれ相続財産の6分の1について遺留分を有しています(民法1028条2号)。ですから、B及びCは、それぞれA法人に対し、1,000万円分について遺留分減殺請求権を行使することができるのです(もちろん、Aもすることができます)。

受贈者は、この遺留分減殺請求に対し、目的物の価額を弁償することにより、目的物の返還を免れることができます(民法1041条)。A法人は、B及びCに対してそれぞれ、1,000万円を支払うことで土地自体は渡す必要がなくなるのです。

 

A法人の立場にたって考えると、「確かに6,000万円の価値のある土地を譲り受けたが、2,000万円を価額賠償しているのだから、法人税も2,400万円ではなく、4,000万円に税率をかけるべきだ」とも思えるかもしれません。

しかし、この点に関しては、資産取得による収益を対象として法人税課税が行われることになっており(最高裁平成4年11月16日)、やはり法人税としては2,400万円を支払い、2,000万円の価額賠償金を支払った事業年度に、これを法人税の申告の際に、損金算入することになります(東京高判平成3年2月5日)。

では、話を元に戻して、A法人に直接遺贈すると、土地の時価の3分の1以上の額を税金として支払わねばなりません。あまり課税されることなく、A法人が土地を取得するにはどうしたら良いでしょうか。

一つとしては、まず、長男Aに相続させ、AからA法人へ時価で売却するという方法があります。もちろん、BとCからは遺留分減殺請求権が行使されるので、Aは価額賠償を行うことになりますが。

長男Aが相続した時点での相続税は、基礎控除の範囲内なので、かかりません(5,000万円+1,000万円×3名(法定相続人)>6000万円)。

A法人の株価の値上がりによる贈与税は上記と同様にかかってきます。

AはA法人に対して「譲渡」しているため、A法人に法人税はかかってきません。

一方、Aには譲渡所得税が発生します。この場合は、売却価格の6,000万円と取得価額の差額に課税されますが、Aの取得価額は、被相続人Xの取得価額がそのまま引き継がれることになります(租税特別措置法31条の4、租税特別措置法通達31の4-1)。Xが第三者から購入したものであれば、譲渡所得税はたいした額にならないでしょうが、先祖代々受け継いでいるものであれば、取得価額は売却価額の5%しか考慮できないので、6,000万円×95%×20%=1,140万円は税金がかかってしまいます(それでも、A法人が直接遺贈を受けた場合の法人税に比べると半分以下の額です)。

また、A法人に繰越欠損金があれば、繰越欠損金と同額の範囲内で受贈益を相殺することができるので、その分納めるべき法人税は少なくなります。

 

上記は非常に単純な事例で述べましたが、被相続人、相続人、受贈者相互の関係や個別の事情によって何が一番良いかが変わってきますので、ご注意ください。

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