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税制知っ得

平成26年9月30日

23.必要経費の考え方④ -単なる趣味か生業か(2)-

前回馬券判決を例に、単なる趣味か生業かで所得及び経費の考え方が変わってくるというお話をしました。同じような切り口から生じる典型的なケースとして「ミュージシャンの所得」が考えられます。

学生の頃から、社会人になってから、趣味で音楽を始めた方が、長年続けるうちに収入をあげられるようになったというような人もいらっしゃるでしょう。例えば、CDの売上やライブのチケット収入等。一方で、スタジオ代や楽譜代等様々な経費がかかってきます。ほとんどの方は音楽だけで生活をしていくことは難しく、むしろ、赤字であることが多く、アルバイトをしたり会社に勤めたりしながら、音楽活動を続けていると思います。ミュージシャンとしての赤字分を給与所得などから控除できたらと思ったことはありませんか。

 

これは損益通算も関わってくる問題です。損益通算は「一時所得」や「雑所得」では認められないため、音楽活動で得る所得を「事業所得」とする必要があります。

そのためには、手続面として、ミュージシャンとして開業届を税務署に提出することがまず必要です。これは書面のみの問題ですので、難しいことはありません。

問題は、実質的な要件です。すなわち、事業所得に該当するためには、「対価を得て継続的に行う事業」(所得税法施行令63条12号)であることが必要です。どの程度の音楽活動をしていればこれに該当するのでしょうか。

 

最高裁の判例によると、事業所得とは、「自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得」をいいます。(最判昭和56年4月24日・民集35巻3号672頁)。

具体的に特定の経済的活動により生じた所得がこれに該当するといえるかどうかについては、

・当該経済的活動の営利性、有償性の有無、継続性、反復性の有無(①)、

・自己の危険と計画による企画遂行性の有無(②)、

・当該経済的行為に費やした精神的、肉体的労力の程度(③)

・人的、物的設備の有無(④)

・当該経済的行為をなす資金の調達方法(⑤)

・その者の職業、経歴及び社会的地位、生活状況及び当該経済的活動をすることにより相当程度の期間安定した収益を得られる可能性が存するかどうか(⑥)

等の諸般の事情を総合的に検討して、社会通念に照らして判断すべきと述べている判例があります(平成23年12月16日大阪地裁所得税更正処分取消等請求事件)。

そして、実際のあてはめはかなり厳格になされています。

上記事件は、勤務医が服飾レンタルを行っていた場合に、その服飾レンタル業が事業所得にあたるかどうかが争われたのですが、

・収入金額を大幅に上回る仕入が行われている

・収益が全く生じていないにもかかわらず、宣伝広告を一切行っていない

・レンタル商品が原告(当該勤務医)のサイズに合うものしかない

・顧客は原告とサイズがほぼ同じ長年の固定客10人程度に限定されている

・業績把握のための収支に係る帳簿を作成していない

・服飾レンタル開始の動機は、服飾をレンタルすれば多くの服飾品を購入することができ、自分も気が向いたら着ることができるというものであった

・服飾レンタルのために特別な店舗や事務所等が設置されているわけではなく、レンタル商品を保管している原告所有のマンションには服飾レンタルの表示もない

・当該収入がその総所得の大部分を占めていること

・本件服飾レンタルは多忙な医師業の合間の僅かな時間に行っている

等の事実を認定し、事業性は認められないとしました。

 

また、個人で機械修理業、不動産貸付、ビジネスホテル及び金券ショップの経営等を手広く行っていた者が、取引先の会社に貸付を行ったところ、これが事業所得にあたるかどうかが問題となった事例では、

・貸付先が当該個人の関係先に限られていること

・金銭貸付のための人的・物的設備を所有していないこと

・貸付のための広告宣伝等を行っていないこと

等を認定し、反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる態様で行われていたものではないので、事業所得ではないと判断されています(平成25年3月19日裁決)。

 

このようにみると、ミュージシャンの音楽活動によって得られる利益が「事業所得」に該当するといえるためには、頻繁にライブを行ったり、CDを制作したりして対外的に発信していること、ライブでは有償のチケットを販売し、ライブハウスの規模に応じたそれなりの集客があること(仲間内ではなく、一般のお客さんが来てくれていることが重要でしょう)、集客のために宣伝行為を行っていること(単に個人のフェイスブックで告知する等だけではなく、フライヤーを作成したり、自身のミュージシャンとしてのホームページを作成して宣伝することが重要でしょう)、当然ながら楽器を所有し、録音設備等も備えた練習施設で練習していること等が必要になってくると思います。

要は、「音楽で食べていく」という覚悟が客観的に表現されて初めて、ミュージシャンとしての「事業所得」が認められることになると思います。いくら音楽が好きでも、本業を制約することなく、上記のような音楽活動をするのはなかなか難しいですね。

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