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税制知っ得

平成26年11月3日

24.アイルランドパンにオランダ具材を挟んだサンドウィッチ

"Double Irish With a Dutch Sandwich"という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。これは、アイッシュティーの親戚でもなんでもなく、食べられるものではありません。巨大な欧米の多国籍企業が戦略的に行っている租税回避のスキームをいいます。

2010から2013年にかけて、イギリスやアメリカの議会での、グーグル、アマゾン、スターバックス、マイクロソフト、アップルに対する公聴会を機に、国際的租税回避の問題が、新聞の国際経済面で大きな見出しで取り上げられるようになりました。

そもそも、国際的租税回避が横行するもの各国の課税制度が異なることが背景にあります。

その対策として租税条約があります。例えば、日本では、国家間の課税制度の相違により、二重課税になったり、反対に、租税回避が行われたり、また、脱税等がなされないように、52の条約を締結しています。

しかし、従来型の租税条約はいずれも2国間の約束事であり、抜け道を埋めきれないというのが現状であり、いたちごっこです。

このような背景で、OECD(経済協力開発機構)が乗り出して、いよいよ、数十カ国が参加する多国間協定を結び、統一した国際課税ルールを反映できる体制を整えるとのニュースがありました。

 

少し聞くだけでも難解そうな国際租税ですが、国際租税回避のスキームの代表格として取り沙汰される、「ダブルアイリッシュ、ダッチサンドウィッチ」について、Googleの例を基に、チャートを利用して、簡単に説明を試みたいと思います。

 

下のチャートの一番下、つまり、子から始まって、叔父さん→お父さん→お祖父ちゃんの順にご覧ください。売上は、緑のドル袋で象徴しています。最初のドル袋が世代を遡っていく過程で、どのように配分されるかを示しています。左端の金庫の中にあるのがGoogleの内部留保、右にあるのが税金、つまり国庫収入です。

アメリカの法人税率は35%です。ヨーロッパの売上だとしても、法人税率は、概ね25%前後です(ただし、アイルランドでは、12.5%と低いですが)。これに対し、アメリカ外での売上に対する現実の課税率(実効税率)は2.4%、3年間の租税回避額は約30億ドルということです(2010年の報道)。

チャートからわかるとおり、父親がオランダの叔父を経由して得たドル袋の分、つまり許諾料の分から、アメリカの祖父に支払った技術共同開発契約に基づく配分を控除した部分が、親の金庫に残ります。この分が課税されないまま、グループの内部留保になるということです。

   

もう一度、全体のチャートをご覧ください。アイルランドにある子会社が二つあります(そのうち一つの課上の住所がバミューダ(これはタックヘブンであまりにも有名です)です)。そして、この会社の取引の間に、あたかもマネーロンダリングを行う会社のようにオランダの子会社が一つあります。これで、「ダブルアイリッシュ、ダッチサンドウィッチ」のレシピーというわけです。

 

海外企業とのM&Aの際、法人税率の低い国に親会社を設立し、この会社を軸に資金の流れを再構築する。海外グループ会社の利益をを外国親会社にいったん集める。また、そこから米国の親会社に融資すれば米国では課税されない。おまけに、外国親新設親会社から米国会社も利払い費を計上することで高税率での課税所得を圧縮できる。このような手法が、財テクならぬ税テクであり、「インバージョン」(租税地変換)(inversion)と呼ばれます。

 

このような税テクに対して、果たして多国間条約で対応できるのでしょうか。課税権は国家主権の一大要素であり、また、各国が外国企業を誘致しようと、法人税の引き下げをその道具にして競っているのも現状です。

また、EU内部でも、もともと、この元の条約は域内の人・もの・金の自由な流通を保障し、自由かつ公正な市場を形成しようとしてものですが、その流れで国家補助なども競争を歪めるものとして敵対視しています。そのアナロジーが税制であり、アイルランドの外国企業に対する税制についてEU委員会は是正を求めています。共同体内での税制をめぐる確執といっていいでしょう。

 

いずれにしても、企業がどこかの国で取引を行い、儲けることができるのは、その国の安全や治安が保障され、物的・制度的な公共インフラが整備されているから、それを利用して商いをするする以上、税金を収めるのが筋だと思います。そして、担税力のある多国籍企業ほど納税すべきというのが大衆の感覚でしょう。しかし、伝統的な物を輸出して外貨を稼ぐ現物の時代から、サイバースペースを利用してサービスを提供するヴァーチャルな時代にあっては、たいして国家から利益を受けていないような気もします。

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