平成27年2月28日
前回は、従業員の出向に際し、出向元と出向先それぞれの会社から支給される給与又は給与相当の負担金に関する税制の考え方を見ました。
今回は、出向の場合、経理の方の日常業務である仕訳をどのように処理すべきか、つまり、会計上の処理について、確認しましょう。
具体例でご案内したいと思います。前回と同じ例でいきます。なお、分かりやすくするために、所得税及び社会保険料の控除及び法定福利費の使用者負担分については、割愛します。
①出向先の給与が月額30万円、出向元の給与が月額35万円、出向元が較差補填のために5万円を支払った場合の例
4月25日、出向元が出向社員に対し、給与月額35万円を銀行振り込みにより支払う。
4月25日、出向先が出向元に対し、負担金(「経営指導料」の名義など)の30万円を銀行振込により送金する。
(出向元)
月日 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
4月25日 | 給与35万円 | 現預金35万円 | 出向社員○月分給与、格差補填 |
4月25日 | 現預金30万円 | 雑収入(給与)30万円(*) | 出向社員○月分給与、出向元に振込 |
* 消費税は不課税収入です。
(出向先)
月日 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
4月25日 | 給与(給与負担金等)30万円 | 現預金 30万円 | 出向社員○月分給与、出向元に振込 |
なお、出向先が出向元に対し、出向従業員に対する給与の支給日より前に送金している場合は、出向元では、仮受金として、ひとまず計上し、支給日に、雑収入(給与)に振り替えるのが適切でしょう。
①出向先の給与が月額30万円、出向元の給与が月額35万円、出向元が較差補填を超過すること10万円を支払った場合の例
4月25日、出向元が出向社員に対し、給与月額35万円を銀行振り込みにより支払う。
4月25日、出向先が出向元に対し、負担金(「経営指導料」の名義など)の20万円を銀行振込により送金する。
(出向元)
月日 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
4月25日 | 給与25万円 | 現預金35万円 | 出向社員○月分給与、格差補填・補助(**) |
寄附金 10万円 | |||
4月25日 | 現預金20万円 | 雑収入(給与)20万円 | 出向社員○月分給与、出向元に振込 |
(出向先)
月日 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
4月25日 | 給与(給与負担金等)20万円 | 現預金 20万円 | 出向社員○月分給与、出向元に振込 |
4月25日 | 給与10万円 | 受増益 10万円 | 出向社員○月分給与、出向元補助(**) |
** 本来、出向先は、出向従業員に対して、給与月額30万円を支払う義務を負います。
にもかかわらず、出向元が、そのうち10万円(差引したもの)を支払うことは、第三者が、出向先の出向従業員に対する債務のうち10万円を弁済していると評価されます。
この第三者弁済について、出向元が反対給付を得ないことについて、通常の経済取引として合理的理由が存在しない場合、この出向元の弁済は、贈与になり、支払われた金銭は寄附金になります。
これと対をなす、出向先が得た利得相当額は、受増益になります。
なお、「通常の経済取引として合理的理由」が存在するか否かは、経済的合理人としての会社を前提に、客観的に判断するものであり、当事者である会社が相互にそのような取引や取引条件について納得しているというだけでは足らないので、慎重な検討が必要です。
因みに、法人税法上、出向元が全額負担する場合であっても寄附金として扱われないケースとしては、下請けの法人に対して、下請製品の検査や加工業務の監督などのために出向させたり、業績不振の融資先法人に対して、その資産管理等のために出向させたりするなど、専ら出向元法人にとってのみ利益になる場合が考えられます。ただ、関連会社に利益が出ていないとういう理由で、出向元が給与を全額負担すれば、贈与に当たり、寄附金と受増益の問題になります。
最後に、出向元の出向先法人に対する寄附金は、法人税法上、わずかしか損金に算入されません。他方、出向先法人の受増益は、益金に算入されます。但し、出向元が親会社で出向先が100%子会社である場合、グループ法人税制が適用されることになり、出向元法人の寄附金は、全部損金不算入になります(法人税法37条2項)が、出向先法人の受増益は、全部益金不算入になります(法25条の2第1項)。
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