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税制知っ得

平成27年3月31日

28.出向に伴う税務③

前回までは、従業員の出向に際し、給与に関す会計上・税務以上の扱いについて、検討しました。

今回は、給与と並んで、問題になり得る「退職給与」の法人税法上の扱いについて見ていきたいと思います。

   
1 考え方

この問題の解決の手掛かりは、退職給与の性質をどのように捉えるかによります。

 

退職給与は、①過去の勤務関係の終了に基づいて、②退職時に一時的に支払われる給与です。

また、退職までの勤務に対する給与の後払いの性質と老後の生活保障のための資金としての性質を有するとされています。

しかも、退職給与の額の算定方法は、多くの場合、従業員の年齢によるのではなく、一定期間の勤続年数に応じて支払われるものであることから、給与の後払いの性質が強いものと思われます。

この給与の後払いの性質に着目すれば、給与と同様の取扱いをするのが筋ということになります。

つまり、享受する利益に応じて費用も負担させる(「応益負担」)べきということになります。

具体的には、出向者が出向先に勤務し、出向先の職務に従事している以上、その出向者の出向期間に対応する退職給与の額は、その労務の提供を受けていた出向先が負担すべきである、ということです。

 

ところが、退職給与は、月給のように月単位に計算し、発生し、支払われるものではありません。

このため、給与の場合は、毎月発生する支払額を元に、出向先と出向元とで費用の分担を行うのに対して、退職給与の場合は、この未可視の金額を見積もらなければなりません。

法人税上退職給付引当金が損金計上されないこと、また、ルールが細かく複雑な企業会計基準がほとんどの中小企業で適用されていないことから、その会社に退職金規定がある場合であっても、帳簿には載ってきません。そこで、会計の大原則である発生主義によって、当該期間に発生した退職給付を見積もることになります。これは退職給付引当金の計算することと同じです。その計算方法については、企業会計基準第26号退職給付に関する会計基準が参考になります。

 
2 ケース毎のアテハメ

以下では、出向元と出向先が出向従業員に対する退職給与の負担を(寄附金が発生しないように)分担すること、出向先が出向元に対して負担金を支払う、というケースを想定して見ていきます。

この場合、支払原資の確保について、中小企業退職共済制度(以下、「中退共」といいます。)などを利用している場合と利用していない場合に分けられ、支払時期について、出向期間中に定期的に支出する場合、出向者が出向元に復帰する際に支出する場合、出向者が出向元を退職する際に支出する場合に分けて考える必要があります。

    定期的に支出(①) 復帰時に支出(②) 退職時に支出(③) 左の組み合わせ(④)
中退共などを利用しない(ア) 出向先 退職給与負担金支出時に損金算入(法人税基本通達9-2-48)(*) 退職給与負担金債務確定事業年度に損金算入(法人税基本通達2-2-12) 退職給与負担金支出時に損金算入(法人税基本通達9-2-49)(*) 左の扱いの組み合わせ
出向元 退職給与債務確定事業年度に損金算入(法人税基本通達2-2-12)
但し、年金の場合は、支給すべき日の属する事業年度。
なお、上記の出向先からの負担金収入は益金に算入。
中退共などの掛金を支出(イ) 出向先 退職給与負担金支出時に損金算入(法人税基本通達9-2-51)(**) 馴染まないと思われる。
出向元 掛金支出時に損金算入(法人税基本通達9-2-51)
なお、上記の出向先からの負担金収入は益金又は預り金に算入。
中退共などの掛金を支出(ウ) 出向先 上記の扱いの組み合わせ
出向元

* 通達では、「支払」となっていますが、退職給与債務が確定していれば、未払金計上は可能かと思われます。

** 現在、同通達が前提にしている適格退職年金制度は存在しませんが、その趣旨から、出向元が契約し、支払うこととなっている中退共などの確定給付企業年金等の掛金について、出向先がその一部を負担した場合、当然に、損金に算入されてしかるべきものと解されます。

 

なお、上記のいずれの場合においても、寄附金として認定されないためには、

負担区分が予め定められていること

退職給与の負担金の額が出向期間に対応するものとして合理的に計算された金額であること(出向先の受ける利益に対応していること)が必要と思われます。

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