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税制知っ得

平成27年9月30日

33.相続時精算課税制度とは

「相続時精算課税制度」はよく耳にするけれども、説明が難しく、使い方がよく分からないという方は多いと思います。

例えば、財産を祖父母や父母から子に贈与した場合、贈与税の基礎控除額(110万円)を超える分について贈与税がかかります。しかし、この制度を利用すれば、2,500万円までは贈与税がかかりません。但し、相続が起こった場合には、事前に贈与していた分も含めて相続税を支払うというものです。世代間の財産の移行を促進する制度なのですが、これでもまだ分かりにくいと思うので、具体例で考えてみます。

Aさん 資産:自宅土地建物 3,000万円 現預金6,000万円

家族構成は妻と子一人。

この度、子(20歳以上)が家を建てることになり、父は、有する現金のうち4,000万円を住宅購入資金として贈与したいと考えています。

 

(贈与税)

2,500万円までは相続時精算制度を用い、1,500万円は住宅取得資金等贈与制度(平成27年中に契約した場合)を利用したとすると、この分の贈与税はなしになります。

(相続税)

・相続財産 3,000万円+2,500万円+2,000万円=7,500万

※ 相続時精算課税制度では、贈与した額を相続税計算時に相続財産に途持ち戻すことになります。なお、自宅土地建物について小規模宅地等の特例の適用なしとします。

・控除額  3,000万円+600万円×2(法定相続人数)=4,200万円

・課税遺産総額 7,500万円-4,200万円=3,300万円

・法定相続分 3,300万円÷2=1,650万円

※ 各人が法定相続分で相続した場合。

・母の相続税額 1,650万円×15%(税率)-50万円=197万5,000円

        →配偶者控除により0円

・子の相続税額 197万5,000円

・納める相続税合計 197万5,000円

贈与税と相続税の合計額 197万5,000円

 

(贈与税)

(4,000万円-1,500万円-110万円)×45%-265万円=810万5,000円

※ 20歳以上の者が直系尊属から贈与を受けた場合の特例税率です。

(相続税)

・相続財産 3,000万円+2,000万円=5,000万円

※ 相続財産への持ち戻しはありません。但し、贈与時から3年経過後に相続が発生したとします。

・控除   3,000万円+600万円×2(法定相続人数)=4,200万円

・課税遺産総額 5,000万円-4,200万円=800万円

・法定相続分 800万円÷2=400万円

※ 各人が法定相続分で相続した場合。

・母の相続税額 400万円×10%(税率)=40万円

        →配偶者控除により0円

・子の相続税額 40万円

・納める相続税の合計 40万円

贈与税と相続税の合計額 810万円5,000円+40万円=850万円5,000円

 

以上により、相続税精算課税制度を利用した方が断然お得となるわけです。

 

しかし、この相続時精算課税制度にはデメリットもあります。

 

① 一度相続時精算課税制度を採用して届出を出すと、暦年課税に戻すことができません。暦年課税の場合の上限額110万円以下の少額の贈与であっても、申告の対象となり、手続が面倒ではあります。都度、贈与額の20%を支払わなければならない。

 

② 小規模宅地等の特例が受けられません。評価額の大きな土地について相続時精算課税制度を利用して贈与した場合、評価額減少の恩恵を受けられず、かえって相続税が高くなってしまう可能性もあります。

 

③ 相続時精算課税制度では、贈与価額を相続時に持ち戻すことになりますが、その際は贈与時の価額で評価します。ですので、評価額が下がり続ける家屋などを贈与する場合は、相続財産が膨らみ、相続税額も増えてしまいます。

 

相続時精算課税制度を利用しなくても、財産の用途について従来からしっかり考えておくことで最小限におさえることも可能です。

例えば、将来、子が家を建てるときのことを考え、1年に1回、500万円ずつ5年にわたり贈与し、6年目に1,500万円を贈与したとしましょう。すると、

1年あたりの贈与税額 (500万円-110万円)×20%-30万円=48万円

5年間の贈与税額 48万円×5=240万円

最後の年は住宅取得資金等贈与の制度を使うので贈与税はかかりません。

そうすると、相続時精算課税制度を利用しなくても、一括で贈与するときに比べて贈与税はかなり低額に抑えられます(ただし、一律500万円を5回に分けて毎年贈与することは、最初から2500万円の贈与の意思があったとみられて2,500万円全体について贈与税を課される可能性はあるので、贈与金額についてはさらに検討した方が良いでしょう)。

場合によっては、相続時精算課税制度を利用したときの方が贈与税と相続税額の合計額が高くなる場合もあり得ます。

 

いずれにせよ、住宅取得資金等贈与、相続時精算課税制度の利用にあたっては、きちんと税額のシミュレーションを行いましょう。また、財産の使い道については、早いうちから計画を立てるようにしましょう。

 

(なお、事案簡略化のため、その他の財産や控除・特例は一切考慮していません)

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