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税制知っ得

平成29年7月7日

41.法人において、前期以前の経理上の誤謬が発見された場合の税務上の処理はどうするか?

概要

前回ご説明した「前期以前に経理上の誤謬が発見された場合」の会計上の処理の続編です。法人税の申告については、誤謬の法人所得に対する影響により、プラスであれば修正申告(法人税等の増額)の原因になり、マイナスであれば更正(法人税等の減額)の請求の原因になり、前者は、修正申告、後者は、更正の請求を行うことになります。修正申告については、申告が遅れるほど延滞税が課せられる(期限内申告をしていれば法定申告期限後1年以内(国税通則法61条1、2項)こともあり、速やかに行う必要があります。

 

更正の請求において、仮装経理に基づく過大申告の場合以外は、その請求の理由、その請求をするに至った事情の詳細等を記載した更正請求書を税務署長に提出します(国税通則法23条3項)。修正申告においては、修正の原因となる事項を記載した書類を提出します(同法19条4項)。

法人税の納税義務は、事業年度終了の時に成立し(同法15条2項)、法人が自ら申告することにより納税額が確定しますので(同法16条1項)、修正申告については特に行政庁の処分を要しませんが、更正の請求の場合は、納税義務者が更正を求め、税務署長が更正の原因の有無の調査を行い、減額更正(行政処分)されることで、過納金の還付請求権が発生することになります(同法23条1、4項)。

 

前期以前の経理上の誤謬に係る修正申告または更正の請求のいずれも、当初申告時になすべきであった確定決算に基づく計数の申告時の加算と減算の一部について法定申告期限後に遅れて行う作業です。そして、過去の帳簿は直接訂正できない(判明した事業年度への影響額について遡及処理することまでしかできない)のに対し、税務申告関係書類は、遡ってあるべき姿に訂正できる(すべき)ようになっています。

このような会計と税務の仕組みの違いにより、過年度の誤謬を発見した事業年度の確定申告時の記載内容に影響が及ぼされることになります。

更正の請求または修正申告

 

速やかに必要な手続を採るべきことはもちろんですが、今回は、更正の請求または修正申告そのものが問題ではないため、これらの手続・内容については割愛します。

 

遡及処理した事業年度の申告調整

前回の設例と説明を前提に説明します。

(1) 誤謬のあった経理についての会計仕訳(期首)

ソフトウェア仮勘定 500,000円 / 繰越利益剰余金 350,000円

                / 未払法人税等   150,000円

(短期)繰延税金資産 13,200円  / 繰越利益剰余金 13,200円

 

(2) 今期にした修正申告時

(税務上の仕訳)

  ソフトウェア仮勘定      / 人件費 500,000円

         

(別表4、5の記載)

別表4

区分 総額 留保分 社外流出分
当期純利益又は当期欠損の額      
加算 人件費過大計上否認 500,000 500,000  
減算        
所得金額又は欠損金額      

 

別表5(1)

区分 期首利益
積立金額
当期の増減; 期末利益
積立金額
         
ソフトウェア仮勘定   0 500,000 500,000
繰越損益金   0 N(*)
差引合計額   0 N+500,000 N+500,000

* 前期確定申告時の繰越損益金(繰越利益剰余金)をN円とします。

ソフトウェア仮勘定以外に申告調整科目はないものと仮定します。

 

(3)修正申告による納税時

(会計仕訳)

未払法人税等   / 現預金   150,000円

          

(4) 今期の確定申告時

過年度の誤謬を訂正するため修正再表示を行う結果、繰越利益剰余金の前期末残高(N円)と当期首残高(N+350,000+13,200=363,200円)が不一致となります。また、税務上の期首残高(N+500,000円)とも異なります。

そこで、税務上は、当期の法人税申告書別表5(1)において所要の調整を行うことが必要になります。

まず、当期首繰越損益金の欄に、修正再表示後の当期首残高を記載します。

他方で、会計上の繰延税金資産は、税務上資産ではないので、「区分」の空欄に「繰延税金資産(過年度遡及)」等の勘定科目を付して、-13,200円を当期首残高に計上します。

その結果、差引合計額の当期首残高は、税務上の残高に一致します。

 

別表5(1)

区分 期首利益
積立金額
当期の増減 期末利益
積立金額
         
         
繰延税金資産
(過年度遡及)
-13,200 -13,200    
繰越損益金 N+350,000+13,200 N+350,000+13,200    
差引合計額 N+350,000 N+350,000    
納税充当金 +150,000 +150,000    
未納法人税等 -110,000 -110,000    

 

(参考、過年度遡及会計基準によらず従前の会計処理によった場合の修正申告後の今期の申告調整)

なお、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準では、過年度の誤謬の訂正による累積的影響額を算定し、期首繰越利益剰余金の額に反映させるようにすべきと言っています。そして、具体的にどこまで累積的影響額に含めていくべきか、明確に解説したものは稀有なところ、「過去の誤謬を前期損益修正項目として当期の特別損益で修正する従来の取扱いは、比較情報として表示される過去の財務諸表を修正再表示する方法に変更されることになる」としており、一般の実務レベルでは、従来の修正経理(前期損益修正損益)程度のきめの細かさの修正再表示で足りるものと思われます。そのモデルケースは、国税のHPをご覧ください。しかも、重要性の判断に基づき、過去の財務諸表を修正再表示しない場合は、損益計算書上、その性質により営業損益または営業外損益として認識することも認容されます。

 

(修正申告後の会計処理)

ソフトウェア仮勘定      / 前期損益修正益 500,000円

 

(申告調整)

別表4

区分 総額 留保分 社外流出分
当期純利益又は当期欠損の額      
加算        
減算 人件費過大計上否認額認容 500,000 500,000  
所得金額又は欠損金額      

なお、今回の設例は、前期以前の経理上の誤謬が発見された場合のうち、納税すべき額が増加する場合のみを例に挙げましたが、納税額への影響により、3のパターンに分けることができます。いずれの場合も、前期末利益剰余金残高と期首利益剰余金残高とが不一致になるときは、確定申告時に上記の申告調整が必要になります。

 

①過小申告の場合→修正申告

②過大申告→更正の請求 例えば、売上の過大計上など

③納税額に影響がない場合→税務上の別途の手続不要 例えば、有税の減損損失の計上漏れなど

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