トップページ  >  連載  >  税制知っ得54

税制知っ得

令和3年7月7日

54.カーボンニュートラル

カーボンニュートラル化への流れ

5月26日、改正地球温暖化対策推進法が成立しました。同法は、国や自治体、企業、国民が取り組むべき気候変動対策を推進する法律です。今回の改正では、基本理念を新たに設けて2050年までの脱炭素社会の実現の方針(温暖化ガスの排出を実質ゼロにする)を明記しました。

また、先月9日、企業の温暖化対策やデジタル化への取り組みを促進する改正産業競争力強化法が成立しました。

地球温暖化対策推進法は、自治体や企業の脱炭素に向けた取組み状況を「見える化」する仕組みに重点を置いています。再生エネルギーの導入や排出削減の努力を比較しやすくし、自治体や企業の競争を加速する狙いがあります。一定以上の温室効果ガスを排出する事業者等に対して、排出量の定期的なネット公開が実施されるようになります。都道府県や政令指定都市などに対して、再生エネルギー導入目標を設定し、開示する義務が課されます。市町村に対しては、再生エネルギー導入目標の開示の努力義務が課されます。

改正産業競争力強化法については、同法に基づく認定を受けた企業に対し税制上の優遇措置を与えることが3月に成立した租税特別措置法に盛り込まれていました(以下、「カーボンニュートラルに向けた投資促進税制」といいます。)ので、ようやく、受け皿に対応する対象とその要件の基本が定められたわけです。今夏にも施行し、企業から計画の申請を受け付けることが予定されています。

   

カーボンニュートラルに向けた投資促進税制

(1) 予め改正産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定を受け、

(2) ①脱炭素化を加速する製品を生産する設備(需要開拓商品生産設備)

または

②生産プロセスを大幅に省エネ化・脱炭素化するための最新の設備

(生産工程効率化等設備)

(3) 国内事業の用に供した場合には、

特別償却(取得価額×50%又は税額控除(取得価額×5%or 10%)のいずれかを選択

および

②投資に応じた範囲内で、欠損金の繰越控除前の所得金額について最大100%の欠損金の繰越控除

なお、適用期間は施行から3年間で、対象設備の投資額は500億円が限度です。

中小企業における活用

現在、上記の需要開拓商品生産設備および生産工程効率化等設備の要件を定める命令は今月の8日までパブリックコメント募集中ですが、その案は概ね以下の通りです(計画認定の基準となる実施指針等は未了)。

需要開拓商品生産設備については、もっぱら、販売用の半導体措置、リチウムイオン蓄電池、燃料電池等の生産に用いられるような設備なので、一般の中小企業には縁遠い制度かと思われます。

これに対して、生産工程効率化等設備については、①付加価値(=営業利益+人件費+減価償却費)の創出に伴って生じる環境への負荷の程度を低減させるものであって、②炭素生産性向上のために不可欠な設備等の炭素生産性(付加価値額÷エネルギー起源二酸化炭素排出量)の1%以上の改善が要件になっています。簡単にいえば、炭素生産性は、工場で生産活動を行っているとして、投入するガソリンなどの燃料や電力会社から供給された電気などの使用に伴って発生する二酸化炭素の排出量の合計で、付加価値を除したものです。二酸化炭素の排出量が小さいほど炭素生産性が高いということになります。ですから、現在の生産設備から二酸化炭素の発生が一定程度少ない生産設備に置き換えることが典型例ということになります。製造業、建設業、運送業などの設備等の更新だけでなく、サービス業においても、十分検討の余地はあると思われます。

ここで新しい時代の競争環境に適応していこうという視点が重要です。大企業だけでなく中小企業も含めて、SBT (Science Based Targets)への加盟が進んでいます。SBT 目標を策定している大企業を中心に、サプライヤーに対する働きかけが拡がりつつあります。SBT 目標では、自らの事業活動に伴う排出(Scope1、2)(*)だけではなく、原材料・部品調達や製品の使用段階も含めた排出量(Scope3)の削減も目標として示すことを求めています。そのため、脱炭素経営が取引先から求められ、また、反対に、取引先にこれを求めるという、新しい行為規範はますます進んでいくと見込まれます。そして、このような時代の要請に応えることが、企業の競争力確保・強化に資するものと考えられます。

 

* 環境省のHPの7枚目(6ページ)のイラスト参照(SBT_syousai_all_20210319.pdf (env.go.jp)

Scope1:事業者⾃らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、⼯業プロセス)

Scope2 :他社から供給された電気、熱・蒸気の使⽤に伴う間接排出

Scope3 :Scope1、Scope2以外の間接排出(事業者の活動に関連する他社の排出)

  top