令和3年8月6日
はじめに
ご存じの通り、消費税制度は、事業者を納税義務者として、一定期間の仮受消費税から仮払消費税を控除した分を消費税として納税させる制度です。
このため、消費税を確定申告している課税事業者においては、どれだけ仮受消費税から仮払消費税を引くこと(仕入税額控除)ができるかが重要な関心事となります。
現行法下、請求書等を保存し、かつ、帳簿に記載することが仕入税額控除の条件となっています。
ところが、令和5年10月1日以降はその要件が厳しくなります。すなわち、これまでは必ずしも課税事業者ではない事業者が発行した請求書等に記載されている消費税額も、仕入税額控除の対象となっていましたが、これからは、予め登録を受けた課税業者でなければ、その請求書等を発行できません。新制度下では、お得意先の仕入税額控除ができるようにするためには、課税売上高1,000万円以下(免税業者)であっても、予め登録しておかなければなりません。免税業者であっても、登録すれば、その業者は消費税の納付義務者(登録日以降)となります。
今年10月からこの登録が開始されます。新法が平成28年に国会で成立して暫らく時間が経過していますので、一度概要を理解された事業者あるいは担当者の方が、復習しながら、インボイス制度に対する準備を行う上で基本中の基本をご説明いたします。
適格請求書発行事業者の登録申請
(1) 適格請求書を交付できるのは、適格請求書発行事業者に限られます。
(2) 適格講求書発行事業者になるためには、税務署長に「適格請求書発行事業者の登録申請書」を提出し、登録を受ける必要があります。課税事業者でなければ登録を受けられないため、免税事業者が登録を受けるためには課税事業者を選択する必要があります(新消費税法57条の2)。
(3) 登録申請書は令和3年10月1日から提出可能です。適格請求書等保存方式が導入される令和5年10月1日から登録を受けるためには、令和5年3月31日まで(困難な事情がある場合は令和5年9月30日まで)に登録申請書を提出する必要があります。
(4)登録申請書の提出後、登録番号の通知および国税庁HPでの公表が行われます。公表情報は、適格請求書発行事業者の氏名もしくは名称、登録番号、登録年月日、本店もしくは主たる事務所の所在地等です。
適格請求書等の記載内容
現行の区分記載請求書とインボイス方式である適格請求書の記載内容の違いは以下の通りです。所定の書式はありません。
記載内容 | 現行 | R3年10月1日から | 備考 |
---|---|---|---|
名称 | 区分記載請求書 | 適格請求書 | (注1) |
誰が | 発行者の氏名または名称 | 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号 | 要件加重 |
誰に対して | 課税仕入者の氏名または名称 | 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称 | (注2) |
いつ | 取引年月日 | 取引年月日 | |
何について | 取引内容(軽減税率の対象品目にはその旨) | 取引内容(軽減税率の対象品目にはその旨) | |
何を | 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の対価の額(税込み) | 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)及び適用税率 | 要件加重 |
税率ごとに区分した消費税額等 | |||
どこに | 紙 | 紙または電磁的記録 | 要件軽減 (注3) |
注1 小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業等の不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う一定の事業を行う場合には、適格請求書に代えて「適格簡易請求書」を交付することができます(新消費税法57条の4第2項)。
公共交通機関、自販機による販売、その他請求書等を交付することが困難な課税資産の譲渡等のうち一定のものについては、適格請求書および適格簡易請求書の交付義務が免除されます(新消費税法57条の4第1項)。
注2 媒介または取次ぎの業務を行う者を介して行う課税資産の譲渡等について、委託者・媒介者等の双方が適格請求書発行事業者であり、委託者が登録を受けている旨を媒介者等に通知する等の一定の要件を満たす場合には、(本来、売主そのものが交付すべきところ)媒介者等が、(本来、売主自身の氏名や登録番号を記載すべきところ)自己の氏名または名称および登録番号を記載した適格請求書を交付することができます(新消費税法施行令70条の12)。
注3 TKCを始め多くの会計ソフトベンダーは、電子インボイス推進協議会(EIPA(E-Invoice Promotion Association))に参画し、国と共に、国際標準規格仕様(Peppol)をベースに、電子インボイスの日本標準仕様を策定します。インボイスの発行からその取り込み、税額計算までプロセスの一気通貫が期待されます。本年秋、その標準仕様の公開、令和4年秋、事業者による対応ソフトウェアの利用開始を目指しています。
適格請求書等保存方式による税額の計算
(1)令和5年10月1日以降の売上税額および仕入税額の計算は、2つの方法から選択できます。
① 積上げ計算:適格請求書に記載された消費税額等を積み上げて計算
② 割戻し計算:適用税率ごとの取引総額を割り戻して計算
(2)原則、売上税額は「割戻し計算」方式ですが、適格請求書発行事業者が一定の条件を満たす場合に、「積上げ計算」でも計算できます。ただし、売上税額を「積上げ計算」で計算する場合は、仕入税額も「積上げ計算」で計算しなければなりません(新消費税法45条)。
(計算方法の組み合わせ)
売上税額 | 仕入税額 | 可否 |
---|---|---|
割戻し計算 | 割戻し計算 | 可 |
割戻し計算 | 積上げ計算 | 可 |
積上げ計算 | 積上げ計算 | 可 |
積上げ計算 | 割戻し計算 | 不可(有利計算排除) |
(3)原則、免税事業者や消費者など、適格請求書発行事業者以外の者から行った課税仕入は仕入税額控除できません。
例外、以下の条件を両方満たす場合は、一定の期間、仕入税額相当額の一定割合を仕入税額として控除できます(平成28年新消費税法改正法附則52、53条)。
① 区分記載請求書等と同様の事項が記載された請求書等を保存していること
② この経過措置の規定の適用を受ける旨(80%控除・50%控除の特例を受ける課税仕入れである旨)を記載した帳簿を保存していること
期間 | 割合 |
---|---|
令和5年10月1日~令和8年9月30日まで | 仕入税額相当額の80% |
令和8年10月1日~令和11年9月30日まで | 仕入税額相当額の50% |
その他
新消費税法の施行に伴い、売主として、自社が交付することを予定している適格請求書等の記載内容が消費税法の要件を満たすか、その検討の前提として自社が得意先とどのような取引をしているのか、紙発行にするか、電磁的発行にするか、また、買主として、自社が受け取ることになる適格請求書等の様式、発行方法など、すり合わせが必要な場合もあると思われます。そこで、これまでの請求書や領収書の整理が必要になります。また、販売管理システムや会計システムにおける対応も忘れないようにしましょう。請求書等の発行場面だけでなく、交付する・される請求書等の保存方法も確認しましょう。そして、余裕をもって、社員研修を行いましょう。国税庁の案内も、随時更新(最新更新は7月30日)されています。
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