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税制知っ得

令和4年3月10日

64.グループ通算制度のメリット③(欠損金の繰越控除)(2)

はじめに

各論の第3回目も、グループ通算制度の「通算」のメリットの一つである欠損金の繰越控除の計算方法について、具体例を用いて示します。

設例

前回②の知識を前提にして、通算法人に、過年度の繰越欠損金のある場合を例にします。グループ通算制度において、グループ通算制度を適用以後に発生した繰越欠損金(「特定欠損金以外の欠損金」)は、原則、欠損金の繰越控除の対象になります。しかし、グループ通算制度を適用する前からあった繰越欠損金(「特定欠損金」)は、欠損金の繰越控除の対象になることが制限されます。

まず、非特定欠損金のみがある場合の計算を見ていきます。なお、まぎらわしいですが、特定欠損金以外の欠損金は、非特定欠損金を導くもととなる欠損金であって、特定欠損金以外の欠損金額=非特定欠損金額ではありません。

  P社 S1社 S2社 S3社
所得金額(当期) 220 80 180 480
特定欠損金以外の欠損金額(前期) 150 0 300 450

但し、上記の所得金額は、欠損金額を控除する前の所得の金額(法人税法57条7号。以下「所得金額」といいます。)。各社は、控除額が優遇される中小法人等に当たらない(「グループ通算制度に関するQ&A第54問」から特定欠損金の分を除き簡単にしたもの)。

 

各社単体申告の場合

  P社 S1社 S2社 S3社
所得金額(当期) 220 80 180 480
繰越控除欠損金限度額 220×50/100
=110
80×50/100
=40
180×50/100
=90
240
繰越控除後所得金額 220-110
=110
欠損金=0
80-0=80
180-90
=90
280
法人税額 110×23.2%
=25.5
80×23.2%
=18.5
90×23.2%
=20.8
64.8

なお、資本金1億円超の法人を前提とする。

グループ通算制度の場合

(1)操作段階

(2)基本計算式

各通算法人について、非特定欠損金額(ア)が、損金算入限度額の割合(イ)で、損金に算入されます。

(ア)非特定欠損金額

グループ全体の特定欠損金以外の欠損金額の合計額を、各通算法人のそれぞれの損金算入限度額の割合で配賦した金額

但し、各通算法人について、特定欠損金以外の欠損金額は、非特定欠損金配賦額ともとの欠損金額の大小に応じて、通算法人間でゼロサムの受け渡しを行う。

(イ)非特定損金算入限度額

グループ全体の損金算入限度額の合計額を、各通算法人のそれぞれの非特定欠損金額の割合で配賦した金額

 

但し、②/③(「非特定損金算入割合」)が1を超える場合(例えば、各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額100(損金算入限度額が50)に対し、各通算法人の10年内事業年度の特定欠損金以外の欠損金の合計額が20の場合)は、非特定損金算入割合を1とし、他方、③=0の場合(各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額が0である場合)その割合を0として計算する。

 

(ウ)非特定欠損金額の損金算入額

下記のうち、いずれか小さい方

アテハメ

    P社 S1社 S2社 合計
  所得金額(当期) 220 80 180 480
特定欠損金以外の欠損金額(前期) 150 0 300 450
損金算入限度額 220×50/100=110 80×50/100=40 180×50/100=90 240
非特定欠損金配賦額 450×110/240=206 450×40/240=75 450×90/240=169 450
被配賦欠損金額
(受け取る)
206>150
206-150=56
75>0
75-0=75
  131
配賦欠損金額
(与える)
    169<300
300-169=131
131
非特定欠損金額 150+56=206 0+75=75 300-131=169 450
非特定損金算入割合 240/450
非特定損金算入限度額 206×240/450=110 75×240/450=40 169×240/450=90 240
非特定欠損金額の損金算入額 206>110
110
75>40
40
169>90
90
240
  欠損金繰越控除後の所得金額 220-110=110 80-40=40 180-90=90 240
法人税額 110×23.2=25.5 40×23.2%=9.2 90×23.2%=20.8 55.5

なお、地方税については、グループ通算の影響が及ばないように建て付けてある。もっとも、地方税のうち、法人住民税の課税標準は法人税額、法人事業税の課税標準は法人所得金額とされているところ、グループ通算制度適用法人については、修正しなければ、その計算結果が課税標準とされてしまうので、これを巻き戻すように住民税及び事業税の計算がなされるので、ややこしい。

 

まとめ

グループ内の各法人が単体で申告した場合のグループ全体の法人税額 = 64.8

グループ通算制度により申告した場合のグループ全体の法人税額   = 55.5

 

この違いは、グループ全体として、所得を計算したことで、繰越欠損金額が、各法人の所得に分配されたことによります。

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