令和4年3月10日
はじめに
各論の第3回目も、グループ通算制度の「通算」のメリットの一つである欠損金の繰越控除の計算方法について、具体例を用いて示します。
設例
前回②の知識を前提にして、通算法人に、過年度の繰越欠損金のある場合を例にします。グループ通算制度において、グループ通算制度を適用以後に発生した繰越欠損金(「特定欠損金以外の欠損金」)は、原則、欠損金の繰越控除の対象になります。しかし、グループ通算制度を適用する前からあった繰越欠損金(「特定欠損金」)は、欠損金の繰越控除の対象になることが制限されます。
まず、非特定欠損金のみがある場合の計算を見ていきます。なお、まぎらわしいですが、特定欠損金以外の欠損金は、非特定欠損金を導くもととなる欠損金であって、特定欠損金以外の欠損金額=非特定欠損金額ではありません。
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | |
---|---|---|---|---|
所得金額(当期) | 220 | 80 | 180 | 480 |
特定欠損金以外の欠損金額(前期) | 150 | 0 | 300 | 450 |
但し、上記の所得金額は、欠損金額を控除する前の所得の金額(法人税法57条7号。以下「所得金額」といいます。)。各社は、控除額が優遇される中小法人等に当たらない(「グループ通算制度に関するQ&A第54問」から特定欠損金の分を除き簡単にしたもの)。
各社単体申告の場合
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | |
---|---|---|---|---|
所得金額(当期) | 220 | 80 | 180 | 480 |
繰越控除欠損金限度額 | 220×50/100 =110 |
80×50/100 =40 |
180×50/100 =90 |
240 |
繰越控除後所得金額 | 220-110 =110 |
欠損金=0 80-0=80 |
180-90 =90 |
280 |
法人税額 | 110×23.2% =25.5 |
80×23.2% =18.5 |
90×23.2% =20.8 |
64.8 |
なお、資本金1億円超の法人を前提とする。
グループ通算制度の場合
(1)操作段階
(2)基本計算式
各通算法人について、非特定欠損金額(ア)が、損金算入限度額の割合(イ)で、損金に算入されます。
(ア)非特定欠損金額
グループ全体の特定欠損金以外の欠損金額の合計額を、各通算法人のそれぞれの損金算入限度額の割合で配賦した金額
但し、各通算法人について、特定欠損金以外の欠損金額は、非特定欠損金配賦額ともとの欠損金額の大小に応じて、通算法人間でゼロサムの受け渡しを行う。
(イ)非特定損金算入限度額
グループ全体の損金算入限度額の合計額を、各通算法人のそれぞれの非特定欠損金額の割合で配賦した金額
但し、②/③(「非特定損金算入割合」)が1を超える場合(例えば、各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額100(損金算入限度額が50)に対し、各通算法人の10年内事業年度の特定欠損金以外の欠損金の合計額が20の場合)は、非特定損金算入割合を1とし、他方、③=0の場合(各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額が0である場合)その割合を0として計算する。
(ウ)非特定欠損金額の損金算入額
下記のうち、いずれか小さい方
アテハメ
P社 | S1社 | S2社 | 合計 | ||
---|---|---|---|---|---|
所得金額(当期) | 220 | 80 | 180 | 480 | |
特定欠損金以外の欠損金額(前期) | 150 | 0 | 300 | 450 | |
ア | 損金算入限度額 | 220×50/100=110 | 80×50/100=40 | 180×50/100=90 | 240 |
非特定欠損金配賦額 | 450×110/240=206 | 450×40/240=75 | 450×90/240=169 | 450 | |
被配賦欠損金額 (受け取る) |
206>150 206-150=56 |
75>0 75-0=75 |
131 | ||
配賦欠損金額 (与える) |
169<300 300-169=131 |
131 | |||
非特定欠損金額 | 150+56=206 | 0+75=75 | 300-131=169 | 450 | |
イ | 非特定損金算入割合 | 240/450 | |||
非特定損金算入限度額 | 206×240/450=110 | 75×240/450=40 | 169×240/450=90 | 240 | |
ウ | 非特定欠損金額の損金算入額 | 206>110 110 |
75>40 40 |
169>90 90 |
240 |
欠損金繰越控除後の所得金額 | 220-110=110 | 80-40=40 | 180-90=90 | 240 | |
法人税額 | 110×23.2=25.5 | 40×23.2%=9.2 | 90×23.2%=20.8 | 55.5 |
なお、地方税については、グループ通算の影響が及ばないように建て付けてある。もっとも、地方税のうち、法人住民税の課税標準は法人税額、法人事業税の課税標準は法人所得金額とされているところ、グループ通算制度適用法人については、修正しなければ、その計算結果が課税標準とされてしまうので、これを巻き戻すように住民税及び事業税の計算がなされるので、ややこしい。
まとめ
グループ内の各法人が単体で申告した場合のグループ全体の法人税額 = 64.8
グループ通算制度により申告した場合のグループ全体の法人税額 = 55.5
この違いは、グループ全体として、所得を計算したことで、繰越欠損金額が、各法人の所得に分配されたことによります。
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