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税制知っ得

令和4年4月14日

65.グループ通算制度のメリット④(欠損金の繰越控除)(3)

はじめに

各論の第4回目も、グループ通算制度の「通算」のメリットの一つである欠損金の繰越控除の計算方法について、具体例を用いて示します。

設例

前回③に続き、通算法人、過年度の繰越欠損金のある場合を例にします。グループ通算制度において、グループ通算制度を適用以後に発生した繰越欠損金(「特定欠損金以外の欠損金」)は、原則、欠損金の繰越控除の対象になります。しかし、グループ通算制度を適用する前からあった繰越欠損金(「特定欠損金」)は、欠損金の繰越控除の対象になることが制限されます。

今回は、前回計算した非特定欠損金だけでなく、特定欠損金もある場合の計算を見ていきます。なお、まぎらわしいですが、特定欠損金以外の欠損金は、非特定欠損金を導くもととなる欠損金であって、特定欠損金以外の欠損金額=非特定欠損金額ではありません。

  P社 S1社 S2社 合計
所得金額(当期) 220 80 180 480
特定欠損金(前期) 0 50 0 50
特定欠損金以外の欠損金額(前期) 150 70 30 250
欠損金の合計 150 120 30 300

但し、上記の欠損金額は、欠損金額を控除する前の所得の金額(法人税法57条7号。以下「所得金額」といいます。)。各社は、控除額が優遇される中小法人等に当たらない(「グループ通算制度に関するQ&A第54問」の設例を一部修正したもの)。

 

各社単体申告の場合

  P社 S1社 S2社 合計
所得金額(当期) 220 80 180 480
繰越欠損金損金算入限度額 220×50/100=110 80×50/100=40 180×50/100=90 240
繰越控除後所得金額 150>110
220-110=110
120>40
80-40=40
30<90
180-30=150
300
法人税額 110×23.2%
=25.5
40×23.2%
=9.2
150×23.2%
=34.8
69.5

なお、資本金1億円超の法人を前提とする。

グループ通算制度の場合

(1)操作段階

(2)基本計算式

第1段階として、各通算法人の特定欠損金額が損金に算入されます。

第2段階として、各通算法人の非特定欠損金額が損金に算入されます。

 

第1段階 特定欠損金額の損金算入

 

特定欠損金額の損金算入限度額(「特定損金算入限度額」)に達するまで損金算入(当該特定欠損金のある通算法人の所得の範囲内でのみ繰越控除を認める(SRLY(Separate Return Limitation Year)(個別申告制限年度)ルール))。

グループ全体の損金算入限度額の合計額を、各通算法人のそれぞれの特定欠損金額の割合で配賦した金額

 

但し、②/③(「特定損金算入割合」)が1を超える場合(例えば、各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額100(損金算入限度額が50)に対し、各通算法人の10年内事業年度の特定欠損金の合計額が20の場合)は、特定損金算入割合を1とし、他方、③=0の場合(各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額が0である場合)その割合を0として計算する。

 

アテハメ

第1段階 P社 S1社 S2社 合計
所得金額(当期) 220 80 180 480
特定欠損金額(前期) 0 50 0 50
損金算入限度額 220×50/100=110 80×50/100=40 180×50/100=90 240
特定損金算入限度額 240/50>1
0×1=0
240/50>1
50×1=50
240/50>1
0×1=0
50
特定欠損金額の損金算入額 0 50=50
50
0 50

第2段階 非特定欠損金額の損金算入

 

非特定欠損金額の損金算入限度額(「非特定損金算入限度額」)に達するまで損金算入

 

非特定欠損金額の損金算入の計算方法については、前回のとおりですが、前回と同じ内容を引用します。

 

(ア)非特定欠損金額

グループ全体の特定欠損金以外の欠損金額の合計額を、各通算法人のそれぞれの損金算入限度額の割合で配賦した金額

但し、各通算法人について、特定欠損金以外の欠損金額は、非特定欠損金配賦額ともとの欠損金額の大小に応じて、通算法人間でゼロサムの受け渡しを行う。

(イ)非特定損金算入限度額

グループ全体の損金算入限度額の合計額を、各通算法人のそれぞれの非特定欠損金額の割合で配賦した金額

 

但し、各通算法人について、損金算入した特定欠損金額がある場合は、②(損金算入限度額)からその金額を控除する。また、②/③(「非特定損金算入割合」)が1を超える場合(例えば、各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額100(損金算入限度額が50)に対し、各通算法人の10年内事業年度の特定欠損金以外の欠損金の合計額が20の場合)は、非特定損金算入割合を1とし、他方、③=0の場合(各通算法人の適用事業年度の所得金額の合計額が0である場合)その割合を0として計算する。

 

(ウ)非特定欠損金額の損金算入額

 

下記のうち、いずれか小さい方

 

アテハメ

第2段階 P社 S1社 S2社 合計
  所得金額(当期) 220 80 180 480
特定欠損金以外の欠損金額(前期) 150 70 30 250
損金算入された特定欠損金額 0 50 0 50
損金算入限度額 220×50/100=110 80×50/100=40 180×50/100=90 240
損金算入された特定欠損金額控除後の損金算入限度額 110-0=110 40-50⇒0 90-0=90 200
非特定欠損金配賦額 250×110/200=137 250×0/200=0 250×90/200=113 250
被配賦欠損金額
(受け取る)
    113>30
113-30=83
  83
配賦欠損金額
(与える)
137<150
150-137=13
0<70
70-0=70
  83
非特定欠損金額 150-13=137 70-70=0 30+83=113 250
非特定損金算入割合 (240-50)/250=190/250
非特定損金算入限度額 137×190/250=104 0×190/250=0 113×190/250=86 190
非特定欠損金額の損金算入額 137>104
104
0 113>86
86
190
  欠損金の損金算入額 0+104=104 50+0=50 0+86=86 240
欠損金繰越控除後の所得金額 220-104=116 80-50=30 180-86=94 240
法人税額 116×23.2%=26.9 30×23.2%=6.9 94×23.2%=21.8 55.6

なお、各通算法人の損金算入欠損金額(どの損金を所得からの控除に使うかであって、上で述べたどの所得から控除するかの問題とは異なる。)と翌期への繰越欠損金額は以下の通りになります。

  P社 S1社 S2社 合計
特定欠損金の損金算入額 0 50 0 50
特定欠損金以外の欠損金の損金算入額(*) 150×190/250=114 70×190/250=53 30×190/250=23 190
損金算入欠損金額 0+114=114 50+53=103 0+23=23 240
翌期繰越欠損金額 150-114=36 120-103=17 30-23=7 60

* 特定欠損金以外の欠損金額の損金算入額の計算方法

まとめ

グループ内の各法人が単体で申告した場合のグループ全体の法人税額 = 69.5

グループ通算制度により申告した場合のグループ全体の法人税額   = 55.6

 

この違いは、グループ全体として、所得を計算したことで、繰越欠損金額が、所得法人の所得に分配されたことによります。

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