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税制知っ得

令和4年5月17日

66.グループ通算制度のメリット⑤(欠損金の繰越控除)(4)

はじめに

各論の第5回目は、グループ通算制度の「通算」のメリットの一つである欠損金の繰越控除の計算方法において、前提としていた2種類の欠損金、すなわち、ひとまずグループ通算制度適用前に発生した欠損金およびグループ通算制度適用後に発生した欠損金と説明するに留めた各欠損金について、もう少し厳密にその内包と外延を明らかにしたいと思います。

 

操作段階

以下の図の指で指し示された段階の扱いの問題です。

 

欠損金の属性による分類と扱い

(1)時価評価対象法人の欠損金

時価評価対象法人の通算制度の承認前の欠損金(10年内事業年度に生じたものです)は切捨て、通算承認以後に発生した欠損金のみ繰越が認められます(法人税法57条6項)。 原則、通算制度の承認を受ける内国法人が、通算制度の開始直前の事業年度終了の時に有する時価評価資産(概ね1,000万円以上の資産)の評価益・評価損の額は、その開始直前の事業年度において、益金・損金の額に算入する必要があります。これにより、通算前に該当資産の含み損益が清算されます。

しかし、①通算親法人となる法人について、通算制度の承認の効力が生じた後に通算子法人となる法人のいずれかとの間に完全支配関係が継続することが見込まれている場合、②通算子法人となる法人について、通算制度の承認の効力が生じた後に通算親法人となる法人との間にその通算親法人となる法人による完全支配関係が継続することが見込まれている場合、時価評価されません(法人税法64条の12第1項)

通算法人が時価評価の対象になるか否かは、完全支配関係が継続することが見込まれないか、見込まれるかによります。企業結合集団の一員の継続性の問題です。

(2)時価評価除外法人の欠損金

原則、特定欠損金額と通算制度の承認後に発生した特定欠損金以外の欠損金額(以下、「特定欠損金以外欠損金額」といいます。)の繰越控除は認められます(法人税法64条の7第1項)。

ここで、特定欠損金額は、以下の3種類に分けられます。

①通算法人の最初通算事業年度開始の日前10年以内に開始した各事業年度において生じた 欠損金額、すなわち、通算開始前に発生した法人の欠損金のことです。

②通算法人を合併法人とする適格合併が行われたことまたは通算法人との間に完全支配関係がある他の内国法人でその通算法人が発行済株式等の全部または一部を有するものの残余財産が確定したことに基因して法人税法第57条第2項の規定(欠損金の引継)によりこれらの通算法人の欠損金額とみなされた金額、すなわち企業結合集団内の組織再編成によって他のメンバー法人からの引継が認められた欠損金のことです。

③通算法人に該当する事業年度において生じた欠損金額のうち法人税法第64条の6の規定(損益通算の対象となる欠損金額の特例)により損益通算の対象外とされたもの、すなわち、被合併会社等の含み損を実現することによる租税回避を防ぐなどの理由から損益通算が制限される通算開始後に発生した欠損金のことです(下記(ア)で説明)。

このように、特定欠損金額には、通算制度の承認前に発生した、または、発生したのと同等の欠損金からなっており、承認後に発生したものからなる特定欠損金以外欠損金額から後者の分が除かれています。

なお、被合併会社等の含み損を実現することで租税回避ができるのは、税務上の制度として、合併時に株式以外の対価を交付しないような一定の組織再編成(「特定適格組織再編成等」)について簿価での引継を認めているためです。

 

(ア)時価評価除外法人の欠損金のうち損金算入が制限されるもの

 

完全な共同事業を行う合併等でない場合であって、多額の償却費が発生するときや、引き継がれた欠損金およびこれと同視すべき含み損があるときに損益通算が制限されます。

 

通算法人が、通算制度の承認の効力が生じた日の5年前の日または通算法人の設立の日のうちいずれか遅い日から通算制度の承認の効力が生じた日まで継続して通算親法人との間に支配関係がない場合において、他の通算法人との間の共同事業に係る要件を満たさないとき(以下、「不完全共同事業組織再編成」といいます)は、以下の事業年度において損益通算が制限されます(法人税法64条の6第1項、3項)。

 

① 多額の償却費の額が生ずる事業年度

② ①以外の事業年度

 

制限の内容は、それぞれ以下の欠損金額までとされています。

①の場合、適用期間内(注1)の日を含む事業年度において生ずる通算前欠損金額

②の場合、適用期間において生ずる特定資産譲渡等損失額(支配関係発生前から有している資産の譲渡等により発生する損失額)(注2)

 

注1

適用期間とは、通算制度の承認の効力が生じた日とその事業を開始した日の属する事業年度開始の日とのうちいずれか遅い日からその効力が生じた日以後3年を経過する日とその支配関係発生日以後5年を経過する日とのうちいずれか早い日までの期間

 

注2

特定資産等譲渡損失額は、新たな事業を開始した場合、損金算入の対象からも排除されています(法人税法64条の14)(下記(イ)参照)。

 

①②いずれの場合も、組織再編成が当事会社の完全な共同事業を行う場合でないことを前提に、一定期間、損益通算を制限しています。特に、②の場合は、合併により欠損金のある会社、あるいは、特定譲渡資産等損失額が発生する原因となる含み損を有する会社、いわば隠れた欠損金を引き継ぎ、組織再編成が租税回避的に利用されることなどを防ぐものです。言葉だけでは適用場面がわかりにくいため、以下の図をご覧ください。

(国税庁のグループ通算制度に関するQ&Aを一部加工し引用)

 

また、③法人税法第64条の8の規定(通算法人間の合併等)により損金の額に算入される金額がある場合において、被合併法人の中に上記①と②で制限される欠損金が含まれる場合などにも、対応する額の損益通算が制限されます(64条の6第4項)。これも、上記②と同じように、組織再編成が租税回避的に利用されることを防ぐ趣旨です。形式的には、繰越欠損金ではありませんが、実質は、通算制度の承認前に発生した欠損金に相当します。

 

(イ)時価評価除外法人の欠損金のうち切り捨てられてしまうもの

 

より租税回避的な組織再編成がなされた場合に欠損金が切り捨てられます。

 

不完全共同事業組織再編成の場合(上記(ア)参照)で、かつ、通算法人が通算親法人との間に最後に支配関係を有することとなった日以後に新たな事業を開始したときには、その承認の効力が生じた日以後に開始する各事業年度については、その通算法人の支配関係事業年度前の各事業年度において生じた欠損金額と通算親法人の支配関係事業年度以後の各事業年度において生じた欠損金額のうち特定資産譲渡等損失相当額は、切り捨てられます(法人税法57条8項)。これは、組織再編成が当事会社の完全な共同事業を行う場合でないことを前提に、新事業を開始した場合に、より租税回避的なものと評価し、さらに進んで、含み損の分を切り捨ててしまうものです。

(国税庁のグループ通算制度に関するQ&Aを一部加工し引用)

 

まとめ

以上のとおり、グループ通算制度においても、租税回避的な組織再編成によって課税上の不公平が生じないように、単体申告における組織再編成に係る未使用欠損金の引継ぎ制限と整合的に、欠損金の利用が規制されています。

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