令和4年9月14日
はじめに
各論の第9回目は、グループ通算制度における遮断措置について説明します。通算法人において、当初申告後、申告内容に誤りがあった場合など修正又は更正の請求を行わなければならないとき、旧制度である連結納税制度の下では、各連結法人について、個別帰属額の再計算をしなければなりませんでしたが、新制度であるグループ通算制度においては、原則、申告内容に変更があった通算法人についてのみ、計算することになりました。これにより、各通算法人の申告ミスの責任について他の通算法人が連座させられることなく、簡便な手続で済むことから制度の利用が格段に容易になりました。もっとも、グループ全体で所得金額がない場合など一定の場合には、旧制度と同様、通算法人全部について再計算しなければならなくなります。
当初申告の計算に誤りがあった場合の扱い
グループ通算制度において、当初申告の計算上、例えば、ある通算法人に通算前所得金額または欠損金額に誤りがあるなどした場合、本来、全通算法人の協働で再計算させるのが筋です。しかし、全員で再計算させる手間を省くため、修更正の事由のある通算法人のみに、再計算させ、かつ、差額分を負担(回収)させ、しかも、グループ法人全体としては、本来、納付すべきであった税額を計算させる方法が考案されました。
原則、修更正の事由が生じた通算法人のみが、再計算を行い、他の通算法人については、当初申告の計算が固定化されます(「遮断措置」)。
遮断措置は、グループ通算制度によりグループ全体での計算がなされる項目について、適用されます。
受取配当等の益金不算入(関連法人株式等の場合)
グループ通算制度において、当初申告の計算上、ある通算法人に関連法人株式等に係る受取配当等の合計額や支払利子等合計額の誤りなどがあっても、原則、各通算法人の納税額について再計算する必要はありません。すなわち、修更正の事由が生じた通算法人のみが、再計算を行い、他の通算法人については、当初申告の計算値が固定されます。
(1) 原則:遮断措置による再計算
(ア)支払利子等合計額の10%相当額控除の特例の適用の可否の判断は当初申告通り
判断の過程と内容は、当初申告のままです。
極めて技巧的ですが、各通算法人の支払利子等合計額、または、各通算法人の適用関連法人配当等の合計額を当初申告の金額に固定し、下記の①から⑥のステップを行います。
① 支払利子配賦額 > 支払利子合計額(⇒受け取る)
② 支払利子配賦額 < 支払利子合計額(⇒与える)
(イ)支払利子等合計額に加算され、または、控除される金額も当初申告通り
上記(ア)の中に含まれます。以下、いずれも当初申告の数値です。
(ウ)修更正後の受取配当等の合計額が、修更正による調整後の支払利子配賦額の10%に満たない場合、その分が益金として加算される
ある通算法人の計算違いにより控除額の計上が多過ぎた場合で、その分がその法人の遮断措置適用後の再計算において、使い切れないということは、グループ全体として、その分だけ控除額が多すぎたことになるので、計算の終わりに、多過ぎた控除額分を加算し、調整します。
(注)支払利子等の額の増減による加減調整
(i)支払利子合計額 > 当初申告支払利子合計額(⇒加算)
(ii) 支払利子合計額 < 当初申告支払利子合計額(⇒減算)
(固定のイメージ)
計算のステップ | 他の通算法人 | 修更正原因のある通算法人 |
① 配当等の額 | 当初申告の②(原則)OR ⑤(特例)の適用結果を前提にする | |
② ①の4% | ||
③ 支払利子合計額 | ||
④ 支払利子配賦額 (③の合計額×①/①の合計額) |
||
⑤ 調整後支払利子合計額{③+(④-③)}×10% | ||
⑥ ②と⑤のうち小さい方の金額 |
(再計算のイメージ)
計算のステップ | 他の通算法人 | 修更正原因のある通算法人 |
① 配当等の額 | 当初申告のまま | 修更正後の数値 |
② ①の4% | ||
③ 支払利子合計額 | 修更正後の数値 | |
④ 支払利子配賦額 (③の合計額×①/①の合計額) |
||
⑤ 調整後支払利子合計額{③+(当初申告の④-当初申告の③)}×10% | 修更正後の数値 | |
⑥ 当初申告により適用された②または⑤による | 修更正後の数値 | |
⑦ 配当等の額から控除する金額 | 修更正後の数値 | |
⑧ 益金不算入額 | 修更正後の数値 | |
⑨ 益金算入額 | 修更正後の数値 |
(2) 例外:全体再計算
以下のいずれかに当たる場合は、上記全ステップについて、再計算を行う。
(ア)
(イ)
(ウ)
① 通算事業年度の全てについて、期限内申告書にその通算事業年度の所得の金額として記載された金額が零であること、または期限内申告書にその通算事業年度の欠損金額として記載された金額があること、かつ、
② 通算事業年度のいずれかについて、期限内申告書に添付された書類にその通算事業年度の通算前所得金額として記載された金額が過少であり、または期限内申告書に添付された書類にその通算事業年度の通算前欠損金額として記載された金額が過大であること、かつ、
③ 通算事業年度のいずれかについて、損益通算の遮断措置の不適用、欠損金の通算の遮断措置の不適用、関連法人株式等に係る配当等の額から控除する利子の額の全体計算の遮断措置の不適用および交際費等の損金不算入の遮断措置の不適用の規定を適用しないものとして計算した場合におけるその通算事業年度の所得の金額が零を超えること
⇒ 通算グループ全体では所得金額がないにもかかわらず、期限内申告額に固定することにより所得金額が発生する法人が生ずる場合
(エ)
欠損金の繰越期間に対する制限を潜脱するため、離脱法人に欠損金を帰属させるためにあえて誤った期限内申告を行うなど法人税の負担を不当に減少させる結果となる場合
計算例
受取配当等の益金不算入の設例(グループ通算制度のメリット⑥(受取配当等の益金不算入)を修正)
(当初申告の前提)
A社 | B社 | C社 | |
関連法人株式等に係る配当等の額 | 200 | 1,800 | 0 |
支払利子合計額 | 100 | 200 | 300 |
(「グループ通算制度に関するQ&A第63問」を元に一部修正)
(当初申告)
A社 | B社 | C社 | |
① 配当等の額 | 200 | 1,800 | 0 |
② ①の4% | 200×0.04=8 | 1,800×0.04=72 | 0 |
③ 支払利子合計額 | 100 | 200 | 300 |
④ 支払利子配賦額 (③の合計額×①/①の合計額) |
600×200/2,000=60 | 600×1,800/2,000=540 | |
⑤ 調整後支払利子合計額{③+(④-③)}×10% | 60-100=▲40 (100-40)×0.1=6 |
540-200=340 (200+340)×0.1=54 |
|
⑥ ②と⑤のうち小さい方の金額 | 8>6 6 |
72>54 |
|
⑦ 益金不算入額 | 200-6=194 | 1,800-54=1,746 |
(当初申告後発覚)
A社において、支払利子額150の計上漏れが発覚。
(修正申告)
A社 | B社 | C社 | |
① 配当等の額 | 200 | 1,800 | 0 |
② ①の4% | 200×0.04=8 | 1,800×0.04=72 | 0 |
③ 支払利子合計額 | 100+150=250 | 200 | 300 |
④ 支払利子配賦額 (③の合計額×①/①の合計額) |
600×200/2,000=60 | 600×1,800/2,000=540 | |
⑤ 調整後支払利子合計額{③+(当初申告の④-当初申告の③)}×10% | 60-100=▲40 | 540-200=340 (200+340)×0.1=54 |
|
(250-40)×0.1=21 | |||
⑥ 当初申告により適用された②または⑤による | ⑤ | 72>54 54 |
|
⑦ 配当等の額から控除する金額 | 21 | 54 | |
⑧ 益金不算入額 | 200-21=179 | 1,800-54=1,746 | |
⑨ 益金算入額 |
79)の所得増について、修正申告
(注)
上記(ア)について、600×0.1=60<2,000×0.04=80により遮断措置適用可。
上記(イ)について、(600+150)×0.1=75<2,000×0.04=80により遮断措置適用可。
上記(ウ)、(エ)について、特に該当しない。
まとめ
関連法人株式等に係る受取配当等の益金不算入の計算において、グループ全体の再計算が回避できるようになったとはいえ、ミスをした通算法人については、技巧的かつ煩雑な計算が待っていますので、要注意です。
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