令和4年10月17日
はじめに
各論の第10回目は、前回に引き続き、グループ通算制度における遮断措置について説明します。当初申告の計算上、ある通算法人に通算前所得金額または欠損金額に誤りがあるなど誤りがあった場合でも、原則、修更正の事由が生じた通算法人のみが、再計算を行い、他の通算法人については、当初申告の計算が固定化されます(「遮断措置」)。
損益通算の遮断措置
(1) 原則:遮断措置による再計算
(ア)損益通算による益金算入額または損金算入額を計算する基礎となる通算前所得金額または通算前欠損金額は、期限内申告書に添付された書類に記載された金額に固定する>
(イ)修正または更正に係る所得を加減算する
(固定のイメージ)
計算のステップ | 他の通算法人 | 修更正原因のある通算法人 |
① 通算前所得(欠損) | ||
② 損益通算 | 当初申告の計算結果を前提にする | |
③ 損益通算後 |
(再計算のイメージ)
計算のステップ | 他の通算法人 | 修更正原因のある通算法人 | |
① 通算前所得(欠損) | 当初申告のまま | 修更正後の数値 | |
② 損益通算 | 当初申告の計算結果を前提にする | ||
③ 損益通算後 | 当初申告のまま | 修更正後の数値 |
全体再計算
以下のいずれかに当たる場合は、上記全ステップについて、再計算を行う。
(ア)
① 通算事業年度の全てについて、期限内申告書にその通算事業年度の所得の金額として記載された金額が零であること、または期限内申告書にその通算事業年度の欠損金額として記載された金額があること、かつ、
② 通算事業年度のいずれかについて、期限内申告書に添付された書類にその通算事業年度の通算前所得金額として記載された金額が過少であり、または期限内申告書に添付された書類にその通算事業年度の通算前欠損金額として記載された金額が過大であること、かつ、
③ 通算事業年度のいずれかについて、損益通算の遮断措置の不適用、欠損金の通算の遮断措置の不適用、関連法人株式等に係る配当等の額から控除する利子の額の全体計算の遮断措置の不適用および交際費等の損金不算入の遮断措置の不適用の規定を適用しないものとして計算した場合におけるその通算事業年度の所得の金額が零を超えること
⇒ 通算グループ全体では所得金額がないにもかかわらず、期限内申告額に固定することにより所得金額が発生する法人が生ずる場合(法人税法64条の5⑥)
(イ)
欠損金の繰越期間に対する制限を潜脱するため、離脱法人に欠損金を帰属させるためにあえて誤った期限内申告を行うなど法人税の負担を不当に減少させる結果となる場合
計算例
欠損金の通算の設例ケース(1)(グループ通算制度のメリット②(欠損金の通算)を修正)
(当初申告の前提)
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | |
通算前所得(欠損) | 500 | 100 | ▲50 | ▲250 |
(「グループ通算制度に関するQ&A(令和4年7月改訂版)第51問」を元に一部修正)
(当初申告)
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | 合計 | |
通算前所得(欠損) | 500 | 100 | ▲50 | ▲250 | |
損益通算 | ▲300×500/600 =▲250 |
▲300×100/600 =▲50 |
300×50/300 =50 |
300×250/300 =250 |
0 |
損益通算後 | 500-250 =250 |
100-50 =50 |
▲50+50 =0 |
▲250+250 =0 |
300 |
(当初申告後発覚)
S3社において、通算前所得300の計上漏れが発覚。
(1) 例外に当たらないか
法人税法の条文(法人税法64条の5⑥)の言い回しにクセがあり、素直に判読するのが難しいため、敢えて丁寧にアテハメしてみます。
① 通算事業年度の全てについて、期限内申告書にその通算事業年度の所得の金額として記載された金額が零であること、または期限内申告書にその通算事業年度の欠損金額として記載された金額があること
本件についてみれば、
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | |
損益通算後 | 500-250 =250 |
100-50 =50 |
▲50+50 =0 |
▲250+250 =0 |
「通算事業年度の全て」、すなわち、修正があるS3社通算法人と他の通算法人の通算事業年度の全てについて、所得の金額(損益通算後)が0以下であることを意味するところ、P社は250、S1社は50の所得の金額(損益通算後)であり、これに該当しません。
② 通算事業年度のいずれかについて、期限内申告書に添付された書類にその通算事業年度の通算前所得金額として記載された金額が過少であり、または期限内申告書に添付された書類にその通算事業年度の通算前欠損金額として記載された金額が過大であること
本件についてみれば、
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | |
通算前所得(欠損) | 500 | 100 | ▲50 | ▲250+300 |
「通算事業年度のいずれか」、すなわち、S3社通算法人と他の通算法人の通算事業年度のいずれかについて、通算前所得の金額が正しい額より過少であったことを意味するところ、S3社において、通算前欠損金額として記載された金額250が、本来記載すべき欠損金額0(所得50(300-250))と比べて過大であり、これに該当します。
③ 通算事業年度のいずれかについて、損益通算の遮断措置の不適用、欠損金の通算の遮断措置の不適用、関連法人株式等に係る配当等の額から控除する利子の額の全体計算の遮断措置の不適用および交際費等の損金不算入の遮断措置の不適用の規定を適用しないものとして計算した場合におけるその通算事業年度の所得の金額が零を超えること
本件についてみれば、
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | |
損益通算後 | 500-250 =250 |
100-50 =50 |
▲50+50 =0 |
▲250+250+300 =300 |
(下記修正申告の表から)
「通算事業年度のいずれか」、すなわち、S3社通算法人と他の通算法人の通算事業年度のいずれかについて、損益通算の遮断措置の不適用…の規定を適用しないものとして計算、すなわち、損益通算等の遮断措置を適用して計算した場合、所得の金額が0を超えていることを意味するところ、P社250、S1社50、S3社300の所得金額であり、これに該当します。
以上、条文のアテハメ方を確認するために、敢えて一つ一つアテハメをしましたが、全部の要件を検討する必要はなく、一つでも当てはまらないものがあれば、全体再計算を行うべき場合に当たらないので、多くの場合、自明なものと思われます。
(2) 原則の計算
(修正申告)
P社 | S1社 | S2社 | S3社 | 合計 | |
通算前所得(欠損) | 500 | 100 | ▲50 | ▲250+300 | |
損益通算 | ▲300×500/600 =▲250 |
▲300×100/600 =▲50 |
300×50/300 =50 |
300×250/300 =250 |
0 |
損益通算後 | 500-250 =250 |
100-50 =50 |
▲50+50 =0 |
▲250+250+300 =300 |
600 |
S3社のみ、300(300-0)の所得増について、修正申告
(注)
上記(イ)について、特に該当しない。
まとめ
損益通算の計算において、全体再計算の要件に当たらない限り、修更正の計算は容易です。
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