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税務判例フォローアップ

平成24年8月17日

4.所得税の課税上、所得から引いてもらえる「その収入を得るために支出した金額」とは?

事案の概要

X(甲会社経営者)は、養老保険に基づいて満期保険金を受け取りました。そこで、その満期保険金の金額を一時所得として記入した上で、支払われた保険料(以下、「本保険料」といいます。)の全額が「その収入を得るために支出した金額」(所得税法34条2項)に当たるとして、所得税の確定申告をしました。

ところが、Y税務署長はXに対し、本保険料の半分は「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして、更正処分過少申告加算税賦課決定処分を課しました。

そこで、Xは、これらの処分の取り消しを求めて、地方裁判所に訴えを提起しました。

第1、2審とも、Xの請求を認めました。

これに対し、国が上告し、本件事案は最高裁で判断されました。

判断

実は、本保険料の半分は、会社において保険料として損金経理されていたことに着目し、その分は、「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとしました。という次第で、原判決は破棄され、国の課税に軍配が上がりました。

コメント

本保険契約の契約者は甲会社でした。甲会社は、Xを被保険者として、保険期間(35年)内にXが死亡したときは死亡保険金が甲会社に支払われ、死亡しなかった場合には満期保険金がXに支払われるという内容の養老保険契約を保険会社と締結していたのです。会社が現実に保険料を支払いました。そして、甲会社は、半分は、会社の損金、半分は、Xに対する貸付金として経理処理していました。半分の保険料は、Xが甲会社から資金を借りてこれを支払ったのと実質的に同じということになります。こうして、満期になり、Xが満期保険金を受け取ったという次第です。

上下の裁判所の判断の分かれ目は、法令の文言でした。

所得税法34条2項の文言だけからは、控除の対象が所得者本人が負担したものに限られているか否かはっきりしないし、これを受けて定められた所得税法施行令183条2項2号所得税法基本通達34-4

所得税法34条2項一時所得の金額は、その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得る令第一八三条第二項第二号又は第一八四条第二項第二号に規定する保険料又は掛金の総額(令第一八三条第四項又は第一八四条第三項の規定の適用後のもの。)には、以下の保険料又は掛金の額が含まれる。
(平一一課所四―一、平二四課個二―一一改正)
(一)その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者が自ら支出した保険料又は掛金
(二)当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるもの
(注)
一使用者が支出した保険料又は掛金で三六―三二により給与等として課税されなかったものの額は、上記(二)に含まれる。
二相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされる一時金又は満期返戻金等に係る部分の金額は、上記(二)に含まれない。)

において、収入を得た者以外の者が負担した保険料も控除の対象となるかのような規定振りになっているということでした。

ところが、最高裁は、下位の規範からではなく、所得税法34条2項が何を定めているかからアプローチすべきとしています。

そして、所得税法34条を含む23条から35条の10種類の所得金額の計算方法を手掛かりに、これは個人収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得としたものであるとしました。そうであれば、個人が自ら負担して支出したものに限り、「その収入を得るために支出した金額」となるのが筋であるとしたのです。

ところが、上のとおり、本保険料の半分については、会社が保険料を損金経理している以上、Xが自ら支出したとはいえない、と判断したわけです。

なお、本件と同時期に最高裁で審理された同様の事件について、納税者に対する更正処分が認められるにしても、過少申告加算税賦課決定処分は酷であり、これを課すべきではない「正当な理由」(国税通則法65条4項)に当たるのではないかということも争点になりました。

最高裁は、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らしても、なお、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうことを確認しました。

その上で、この類似の事案について、所得税基本通達の文言や市販のいくつかの解説書が従業員の給与所得としての課税の有無にかかわらず、保険料を全部控除できると解説していたの事情のみをもって、真にやむを得ないとは言えないとしました(2 納税の軽減措置が、自分のケースに当てはまるか疑義がある場合は?参照)。

確かに、納税者の側からみた場合、所得から控除される金額が多いほどうれしいというのが本音ですね。そういう本能的なものを前提に、自分に有利な方向で解説本があったりすれば、それに乗っていてしまうのも人情でしょう。色々な通達が木の根のように張り巡らされていても、アテハメが難しい場面はあります。しかし、過少申告加算税の宥恕の要件は厳しいです。専門家に相談しても、最後に納税者の方に決断していただかなければなりません。

もっとも、経営者が、半分の保険料を会社から払ってもらっている。会社では、その分を損金経理しているので法人税が課税されない。他方、その経営者もその分は受け取った保険金から控除される。このような解釈は、一般国民の常識から見て、どちらかと言えば、受け入れられないものかと思います。

事例

所得税更正処分等取消請求事件
最高裁平成21年(行ヒ)404号 平成24年1月13日 第二小法廷判決

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