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税務判例フォローアップ

平成25年3月21日

10.納税義務者はどう決めるか

事案の概要

Xは、旅館業及び飲食業を営んでいました。

ABは、Xの従業員であり、Aは副支配人であり、Bは料理長でした。

ABは、食材の納入業者から、6年間にわたり、食材納入時に、いわゆるリベート分(以下、「本件リベート」といいます。)を上乗せした価格で取引を行っていました。

この間、Xは、本件リベートを帳簿に計上せず、よって法人税および消費税を申告するに当たって益金に算入していませんでした。

これに目を付けた税務署は、Xに対し、本件リベートは本来益金に計上すべきであるとして、法人税について更正処分および重加算税賦課処分、ならびに、消費税更正処分および重加算税賦課処分(以下、まとめて「本件各更正処分」といいます。)を行いました。

Xは、本件各更正処分に基づき、法人税及び消費税等を納付しました。

他方で、当該税務署に対し異議申立て、国税審判庁に対し審査請求を行いましたが、いずれも棄却されました。

そこで、Xが国に対して、本件処分の取消を求めた事案です。

 

本件の意味

本件では、形式的には、ABが、その役職を利用して、仕入先に対して、ワイロを請求し、これを着服していた行為が問題になりました。

ABは、いうならば会社(X)の職務上の立場を利用して、金銭を着服したということで、感覚的は、横領とか、背任の事案と思われるでしょう。

それならば、Xは従業員にお金を抜かれ、損をしているのに、収益があったものとして、本来の税金+35%の重加算税まで課されて踏んだり蹴ったりだと思われるでしょう。

では、どうしてこのようなことになったのでしょうか。

税務署は、実質的に、このリベートが一旦会社の管理下に入ったものであると評価したのが本件各処分に至った理由です。

その条文上の根拠としたのが、実質所得者課税の原則を規定した条文です。

争点

本件リベートに係る収益はXに帰属するか。

裁判所の判断

収益の帰属について、本件リベートに係る収益が原告に帰属するか否かの判断に当たっては、本件リベートを受領した副支配人らの法律上の地位、権限について検討するとともに、副支配人らを単なる名義人として実質的には原告が本件リベートを受領していると見ることができるか否かを検討することが相当である。

本件では、①XがABに対し、本件食材の発注権限を与えていたとは認められない。また、XはABに対し、リベートについて法的な受領権限を与えられていたとも認められない。

よって、ABは、個人としての法的地位に基づき自ら受け取り、自己の判断により、費消していたことになる。

したがって、ABが単なる名義人として本件リベートを受領したとは認められない。

コメント

結局、本件各処分は全部取消ということになりました。

ただ、今回問題になったのが、実質所得者課税の原則の条文、この条文の解釈については、注意が必要です。法人税法だけでなく、所得税法、消費税法、地方税法にもあります。

その趣旨は、みかけの利益の帰属主体と実際の利益の帰属主体が異なるときに、すなわち、形式と実質が異なるときに、その実質に着目して課税するということです。例えば、ある資産家があって、自分の事業収益としてしまえば、累進課税によりたくさんの税金を課せられてしまうところ、形式上、息子や第三者が事業をしたことにして税を免れ、実際にはその利益をコントロールしている場合は、形式と実質が異なる例です。

法解釈的には、わざわざ条文をこしらえることで、補足できないところを補足できるようにしたとか、このような場合はもともと課税されるべきであり、そのことを確認したに過ぎないとか、色々解釈があり得ます。また、研究者の間で判断基準についても議論があるようです。

過度の教条主義は、本質を見誤ります。要は、課税は担税力に着目したものであるから、誰に利益が帰属するかの判断に帰着すると思われます。そして、社会生活上の利益を得ることができる地位こそ、「権利」として保護されているものと思います。であるならば、端的に事実関係を全部を評価して、私法上、誰が「権利」者かを判断することだと思います。

原審の事実認定を前提にする限り、税務署の処分は無理筋だったような気がします。本件各処分は裁判での主張からしてろれつが回っていないような気がしました。

 

* 事案を分かりやすくするため簡略化しています。

事例

更正処分等取消請求事件
仙台地裁平成21年(行ウ)第33号
仙台地方裁判所平成24年2月29日判決(全部取消)

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