平成25年7月31日
会社更生手続等を経たゴルフ会員権を譲渡した場合の譲渡所得税について、国税庁において取扱いの見直しが行われ、遡って、還付請求できることになりました。
納税者がゴルフ会員権(以下、「本件ゴルフ会員権」といいます。)を譲渡後、譲渡所得について申告を行いました。
ところが税務署は納税者に対し、申告の計算方法と納税額に誤りがあったとして、過少申告加算税及び延滞税(合計約65万円)を課したため、本来の譲渡所得を上回る分について課税処分の取り消しを求めました。
実は、本件ゴルフ会員権については、会社更生手続が開始する前は、ゴルフ場を優先的に利用する権利が付加された株式でした。ところが、会員権を発行する会社の更生計画が認可され、その会社の発行済株式は全部無償で消却されました。そして、会員の有するプレー権はそのまま存続させ、会員に対して新株引受権を付与することとされました。その後、納税者は新株引受権を行使して新株を取得しました。この新株を譲渡しても会員資格を喪失しない性格のものでした。その後、納税者は、この新株を譲渡したのです。
この事件がきっかけで以下のように取扱いが変更されました。
これに伴い、所得税が納めすぎになる場合には、この取扱いの変更を知った日の翌日から2月以内に所轄の税務署に更正の請求をすることにより、所得税が還付されます(国税通則法23条2項3号、同施行令6条1項5号)。
このようにゴルフ会員権の譲渡所得の計算にあたっての取得費をどう解するかについて、国税庁から通知が出されたことの背景には、裁判により、課税庁のゴルフ会員権の譲渡所得に対する納税の申告に対して更正処分が取り消され、確定したことがあります。
しかも、その実質が、従来の国税庁の解釈を変更するものであったからです。
従来は、預託金会員制ゴルフ会員権について、ゴルフ会員権としての性質を維持しているかの観点から決めていました。会社更生手続等により、ゴルフ会員権としての性質がなくなったとして、預託金債権の債権全額カットがある場合、その分は画一的に取得費から抜け落とされていました(一部カットの場合は温存)。
これに対し、株式の譲渡の場合は、
ところが、「ゴルフ場の所有又は経営に係る法人の株式を所有することがそのゴルフ場を一般の利用者に比して有利な条件で継続的に利用する権利を有するものとなるための要件とされている場合における当該株式(同法施行令25条の8第2項)」(以下、「ゴルフ場優先的利用権付き株式」といいます。)については、通常の譲渡所得と同じく総合課税の対象となります(同法37条の10第2項柱書) 。
本件では、両当事者の間に、認定の対象となる実際に起こった事実について争いはなく、法律の定める要件に当てはまるか、つまり、その事実をどのように評価するか、が争いになりました。
大きな争点は、2つです。
課税庁は、旧株式の償却の点に着目し、納税者は、新たに、会員の地位と新株を取得したといい、納税者は、ゴルフ場の会員の地位が継続していることに着目し、会社更生手続前からの会員権の同一性を主張してきました。
旧株式が一且無償償却され、新たに付与された新株引受権の行使によって新株式(以下、「本件新株式」といいます。)を取得したという点において、株式の同一性が失われたとしつつも、
本件ゴルフ会員権の内容をなす、それ以外の債権的契約関係について、仔細に事実の経過を認定し、①基本的な部分である優先的施設利用権(プレー権)、及び②会費等納入義務には変更がないと認めました。
こうして、譲渡された本件ゴルフ会員権のうち株主権以外のその余の債権的契約関係(その基本的な部分はプレー権及び年会費等納入義務)(以下、「会員の地位」といいます。)については、同一性は保持されているとしたのです。
ここまでは、納税者有利でした。
しかし、①株主権(本件新株式)について、会員の地位が必要不可欠な要素になっていないから、「ゴルフ場優先的利用権付き株式」には当たらないとしました。他方、残りの②会員の地位は、会社更生手続以前から継続しているとしました。
結局、会員権の内容を分解し、①本件新株式については、源泉分離課税を、②会員の地位については、譲渡所得課税(本件では長期)の対象になるとしました。
今回、ゴルフ会員権が譲渡されました。この権利をばらして譲渡することができない不可分一体のものであれば、「ゴルフ場優先的利用権付き株式」に当たることが決まれば、その取得費の計算ということになったでしょう。
しかし、本件ゴルフ会員権から新株式だけでも譲渡できるので、ばら売りできるし、株主権が会員の地位と不可分でないということになり、それなら、株式と会員の地位について別に見ていこうということになりました。
実は、この後の「取得費」の算定も納税者にとって関心事です。譲渡所得の計算で取得費ができるだけ大きな金額で認めてもらえるほど、税額が低くなるからです。というのも、アベノミクスで少し金融商品市場が上向いたとはいえ、ゴルフ会員権の多くはまだ含み損を抱えていると思います。実を取るならば、株式と会員の地位が不可分一体のものと評価されなくても、もとの会員権を取得する際に出捐した金銭のうち、どれだけが会員の地位を得るためにかかった費用として今も生きていると評価してもらえれるかがポイントになります。
従来のように、会員権の預託金返還請求権が全部カットされたから取得価額も一刀両断に全部カットというのではなく、会社更生手続等以前の会員の地位に対応する取得価額が審査されるようになったのです。
* 事案を分かりやすくするため簡略化しています。
ゴルフ会員権の譲渡所得に係る取得費の取扱いについて
(http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h24/golf/01.htm)
東京高裁平成24年6月27日判決(原審でのXの一部勝訴、確定)