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税務判例フォローアップ

平成28年7月7日

28.グループ会社の組織再編として子会社を吸収合併するときにも、行為計算否認により、法人税の申告は修正されるか? ―企業再編と租税回避行為―その2

今回は、連載20の続編です。20で紹介したヤフーの事件に対して、本年2月、最高裁判決が下されました。この判決で、最高裁判所は、合併会社による被合併会社の未処理欠損金の引継ぎについて、形式的要件を満たすときでも、これを引き継ぎ、かつ、損金算入することが制限されることを明らかにしました。そして、その解釈を導き出すために、組織再編に係る行為計算否認の規定(法132条の2)(いわば、法人税法の権利濫用条項)(以下、「本濫用条項」といいます。)の趣旨および目的を明らかにしました。

第百三十二条の二 税務署長は、合併、分割、現物出資若しくは現物分配(第二条第十二号の六(定義)に規定する現物分 配をいう。)又は株式交換若しくは株式移転(以下この条において「合併等」という。)に係る次に掲げる法人の法人税につき更正又は決定をする場合におい て、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には、合併等により移転する資産及び負債の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加、法人税の額か ら控除する金額の増加、第一号又は第二号に掲げる法人の株式(出資を含む。第二号において同じ。)の譲渡に係る利益の額の減少又は損失の額の増加、みなし 配当金額(第二十四条第一項(配当等の額とみなす金額)の規定により第二十三条第一項第一号(受取配当等の益金不算入)に掲げる金額とみなされる金額をい う。)の減少その他の事由により法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認め るところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。
一 合併等をした法人又は合併等により資産及び負債の移転を受けた法人
二 合併等により交付された株式を発行した法人(前号に掲げる法人を除く。)
三 前二号に掲げる法人の株主等である法人(前二号に掲げる法人を除く。)
(平一三法六・追加、平一八法一〇・平一九法六・平二二法六・一部改正))

もちろん、結論は、大方の予想通り、ヤフー側の敗訴でした。本判決の意義は、一つの税務紛争に決着をつけた以上に、本件濫用条項の発動要件が示されたことにあります。文言上は条文の要件を満たしていても、どのような場合に、(企業にとって事業遂行上大変便利である)組織再編税制の適用が排除されるか、その考え方の道筋が示されました。裏から言えば、企業が、組織再編税制の特例の適用を求めるうえで、何を履践しなければならないかがより明確になったのです。

そこで、今回は、本件濫用条項の発動要件を中心に最高裁判決を見ていきたいと思います。

最高裁の解釈の筋道

(1) 本件濫用条項の趣旨・目的

組織再編は、類型的に見て、そもそも、眉唾物

組織再編は、その形態や方法が複雑かつ多様
↓だから
これを利用する巧妙な租税回避行為が行われやすい
↓ということは
租税回避の手段として濫用されるおそれ

法人税法上、組織再編を利用した租税逃れに対して法人税の更正又は決定を行う権限を税務署長に付与

国民間の税負担の公平を維持(憲法14条)

まじめに納税していなかった人、法人を、まじめに納税する人と同じ土俵に置き直す。

(2) 文言の意味

法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるもの」(以下、「不当性要件」といいます。)とは、

法人の行為または計算が、組織再編税制の各規定を、租税回避の手段として、濫用することにより法人税の負担を減少させるもの

 

①主観面

組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図

②客観面

組織再編税制の趣旨・目的から逸脱する態様

 

(3) 判断の観点

①不自然な行為・計算

通常は想定されない組織再編成の手順や方法、実態とは乖離した形式の作出、等

②税負担の減少以外に合理的な事業目的がない

所得税の課税対象になる給与所得とは?

給与所得(所得税法28条1項: 給与所得とは、俸給、給料、賃金、歳費及び賞与並びにこれらの性質を有する給与(以下この条において「給与等」という。)に係る所得をいう。)には、所得税が課せられます。

給与所得は、俸給、給料などの呼称に関わらず、雇用契約に基づき使用者の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対価として受ける給付をいいます(最高裁判例)。

その給付は、金銭の支払に限られず、物、権利など広く経済的な利益の供与をいいます(包括的所得概念)。

②客観面:特定役員要件をみたすか?

(1) 特定役員の意味

組織再編税制の実態に合った課税の容認。

原則、組織再編成時には、移転する資産等を時価評価し、評価益があればこれに課税するもの。

しかし、共同で事業を行うため、従来からの投資と支配の継続がある場合にも、この原則を貫いてしまうと、余計な税金がかかり、企業の活動を阻害する。

組織再編成による資産等の移転が形式的で実質その資産等を保有していると評価できるとき(適格組織再編成)は、

①譲渡損益を発生させない。

移転資産等の帳簿価額引継ぎ(法62条の2等)により譲渡損益生ぜず

②未処理欠損金を引き継ぐことができる。

 

特に、本件で争点になった②については、投資と支配の継続があるといえるための要件を規定。支配権獲得後の経過期間、事業の内容、支配の内容などから、いくつかの類型をあげる。

このうち、両会社の合併前の一定の役員が合併後も役員になること(特定役員要件)は、合併法人と被合併法人の特定役員が合併後において共に合併法人の役員に就任するのであれば、双方の法人の経営の中枢を継続的かつ実質的に担ってきた者が共同して合併後の事業に参画することになり、経営面からみて、合併後も共同で事業が営まれているとみることができることから、事業規模に関する要件に代えて認めた。

(2) アテハメ

では、実質的に見て、本件において、A社に特定役員がいたか。

E氏は、連載20の5で引用されたとおり、実質的にAとXとの共同事業の橋渡しをしておらず、かつ、他にもそのような役目を果たした役員がいなかった。

実質的に特定役員の要件を満たさない。

①主観面:組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図があるか?

E氏は何をしたか。

E氏は、おおむね本件組織再編に向けた準備とその後の事業計画に関する業務にしか関与していない。

E氏は、Aの副社長就任後、Aの利益だけでは容易に償却し得ない約543億円の未処理欠損金額(本件欠損金額)をXの欠損金額とみなし、これをXの損金に算入することによりその全額を活用することを意図して、ごく短期間に計画的に実行した。

E氏のAの副社長就任は、法人税の負担の軽減を目的として、特定役員引継要件を満たすことを意図して行われた。

 

結論

E氏のAの副社長就任は、組織再編税制に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものとして、法132条の2にいう「法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものに当たる

 

コメント

最高裁は、支配被支配関係に入ってから5年が経過しない場合において、企業が組織再編税制の恩恵に預かれるのは、実質的に見て共同事業が行われていると認められるときに限られるとしました。これは組織再編税制の要件の縮小解釈です。

その一方で、本件濫用条項に、主観面として、組織再編成を利用して税負担を減少させる意図を要件として定立しました。これは組織再編税制の要件の厳格化に対する歯止めです。

 

実際に「意図」といわれると、行為の外形だけではなく、認識と意欲とが求められるようにも見えます。しかし、実務的には、本件一連の訴訟において裁判所が事実認定してきたように、結局は、判断・評価の対象となる行為から読み取ることのできる「意味」に過ぎないと解されます。

要は、外部者から見ても、内部者からみても、組織再編税制の規定に藉口して、同制度が予定したものではない、節税を超えた租税回避をしている場合に限り、待ったをかけなさい、ということだったと思います。

※ 事案を分かりやすくするため、簡略化しています。

事例

最高裁平成28年2月29日、法人税更正処分取消請求事件判決

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