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税務判例フォローアップ

平成29年5月15日

29.役員報酬が「不相当に高額な部分」に該当するか否かはどう判断されるか?

事案の概要

X社(沖縄に本社を有する泡盛の製造販売業者)が、損金の額に算入した役員報酬のうち、不相当に高額な部分の金額については、損金の額に算入されないとして、税務署が更正処分等をしたことに対して、取消訴訟を提起した事件です。

これを題材に役員報酬(今回は退職給与以外の分に限ります。)の損金不算入のリスクについて考察したいと思います。

役員報酬と損金算入

役員報酬が支払われた場合、必ずしも、すべてが法人の損金として課税されないということにはなりません。

損金算入できるためには、いくつかの条件をクリアーしなければなりません。

まず、(1)役員報酬の支払方法の要件

①定期同額給与、②事前確定届出給与、または、③利益連動給与のいずれかの給与に当たることが必要です。

そして、(2)役員報酬の金額の要件

①「不相当に高額な部分」(実質基準)でなく、かつ、法人の内部承認(形式基準)が必要です。

 

それぞれの意義については、税制知っ得15参照をご覧ください。

 

争点

本件では、上記2(2)の要件のうち①「不相当に高額な部分」(実質基準)に該当するか、が問題になりました。

その判断基準は、その役員の職務の内容、その法人の収益及び使用人に対する給料の支給の状況、その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員報酬の支給の状況等に照らし相当であると認められる金額を超える部分の金額と定められています。また、役員の数が2以上である場合には、これらの役員ごとに超える部分の金額の合計額となります(法人税施行令70条1項)。

 

判断

相当性を判断するための判断資料(項目) 証拠調から得られた資料(証拠資料) 個別評価 総合評価
その役員の職務の内容 各役員の職務の概略 一般的に想定される範囲内のもの(N) 職務の内容は、一般的に想定される範囲内のものだから、特別に高額な役員報酬ないし役員給与を支給すべき職務の内容とは言えない。
各事業年度における売上げや収益が、相対的に抜きんでていない(判決の伏字の流れから類推。)。
本件役員ら給与の額は、類似法人の中で役員報酬ないし役員給与の最高額となっている7番または29番(Xより経営指標が上位の法人の参照番号)をも上回る。
   ↓↓↓
少なくとも、類似法人の代表取締役および取締役らの役員報酬ないし役員給与の最高額を上回る部分は、不相当に高額な部分の金額に該当する。
その法人の収益 更正処分に係る事業年度より広い範囲の収益状況  
使用人に対する給料の支給の状況等 更正処分に係る事業年度より広い範囲の給料ないし給与の支払の状況等 損金の額に算入した役員報酬の額と同様の増減(N)
その法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員報酬の支給の状況等 沖縄国税事務所及び熊本国税局管内の単式蒸留しょうちゅうの製造免許を付与された法人で、更正処分に係る事業年度と半年以上事業期間を同じくする事業年度につき、総売上金額が、Xの各事業年度の総売上金額の0.5倍以上2倍以下の範囲内(いわゆる倍半基準)で抽出された延べ34法人 左の類似法人の抽出方法自体合理的なので証拠として採用
 

* 報酬増額の観点からの評価について以下の通り省略。

N:ニュートラル、+:加算すべき、-:減算すべき

 

各事業年度について、各役員の年間支給額-類似法人の年間最高支給額(但し、>0)を算出し、これらを合計したものが、不相当に高額な部分の金額と認めました。

 

コメント

役員報酬の不相当性が問題になる場合、決まって逢着するのが、いわゆる実質基準の問題です。この基準については、これまでの裁判で、基準が極めて抽象的、曖昧で不明確であるから、課税用要件明確主義(憲法84条)に反するとして、争われてきましたが、政令も含めてみれば、判断基準は十分明確になっているとして、違憲ではないとされています。そうはいうものの、納税者から見れば、依然として抽象的です。

この抽象的基準を甘受するにしても、適用の段階でのデータの抽出方法について、なかなか納得がいきません。上記の倍半理論には法令上の根拠はありません。そこで、どうして上場企業には適用せず、問題とされる法人の売上の倍から半分までなのか、平等原則(憲法14条)に反するのではないかとして、反論しました。しかし、ただ合理的な差別だから合憲だと一蹴されました。

また、実際に企業は基準となる事業規模類似の同業種法人の役員報酬の支払データを入手できないので、やはり、憲法84条に違反すると反論しました。しかし、国側のいう、「財務省や国税庁がホームページ上で公表している『法人企業統計年報特集』、『民間給与実態統計調査』や税務関係の雑誌である『週刊税務通信』の掲載記事や、税務関係の書籍にも参考となる資料が数多く掲載されているし、東京商工リサーチのTSRレポートのサンプルには、役員数や役員報酬の金額が記載されているのであって、これらの資料から、類似法人の一人当たりの平均役員給与額を算定することも可能である」という主張が、まるごと裁判所に追認されました。公開資料で算定できるというのなら、課税庁も、それを元に更正処分し、また、それを元に裁判でも主張立証するのが筋ではないでしょうか。

さらに、うちの役員は格別の努力をしているとか、業務をこなしているので、これも斟酌すべきだと主張しましたが、ある程度抽象化して判断せざるを得ないとして、このような個別事情を捨象してしまうことも是認しました。

総じて、裁判所は、現実の基準については、納税者が何を言っても行政庁の合理的裁量により定めたものだからその適用は合憲であるとしています。それだけでなく、課税庁が未公開のデータベース(性格上、広い意味で企業の営業秘密の部類になると思われます。それ故、判決でも該当部分については非公開になっていることと思われます。)から、密室で抽出し加工したものを、完全無欠なものとして、全く吟味していません。

今後、税務署に対する関係で、少なくとも訴訟の場において、納税義務者が対等の関係で争う機会が保証されること(武器対等)で、実務上の基準がより明確になるかとも思われます。訴訟を通じて、納税者が主張を積み重ね、基準を具体化、予見可能なものに発展させていくことも方法か思います。

なお、本件では、退職慰労金についても争いになりましたが、こちらは納税者に軍配が上がっています。

事例

法人税更正処分等取消請求事件

東京地裁平成28年(行ウ)第5号 平成28年4月22日判決

わかりやすくするため、事案を簡略化しております。

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