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税務判例フォローアップ

平成30年10月15日

39.非上場株式の評価方法を誤った事案(法人税)

時系列から関係する部分のクローズアップ

前回の事件の経過から特に関連する部分をクローズアップします。事実関係の全般はこちらこちらをご覧ください。

平成2.6.8 Kは、K社の株式と不動産現物出資でKR社設立(時価の10分の1以下の価格で計上)(①)。

平成3.12.5 Kは、A社他13社に対し、KR社持ち分譲渡(廉価で譲渡、Kの支配率48%に低下)(②)。

平成3.12.13 Kが死亡(③)。

平成17.3.31 Hは、K社、KG社に対し、それぞれ、KR社持ち分譲渡(それぞれ、39,235円/口の対価)(④)。

平成17.10~11 A社他13社は、KG社に対し、KR社持ち分譲渡(5,000円/口の対価)(⑥)。

平成18.3 K社とX1は、KG社に対し、それぞれ、KR社持ち分譲渡(41,042円/口の対価)(⑦)。

平成18.3 X1は、KG社に対し、KR社持ち分譲渡(41,042円/口の対価)(⑧)。

ところが、課税庁は、

平成22.10.29、11.24(第3事件)(法人所得)

Kに対し、平成17年度の法人税の申告はあったものの、申告額が少な過ぎたとして更正処分(④の対価は、81,287円/口とすべき)。

KG社に対し、平成17、18度の法人税の申告はあったものの、申告額が少な過ぎたとして更正処分(④の対価は、81,287円/口、⑥の対価は、81,177円円/口とすべき、⑦、⑧の対価は、109,786円/口とすべき)。

 

原則修正パターンに沿って解析

(1) 三段論法の枠組み

K、KGには「収益」が発生した(法人税法22条2項)。

なぜか、

  

各譲渡④(HのK社、KG社に対するKR社持ち分の譲渡)が低額で譲渡されたため、K社およびKG社に受贈益が発生した。

各譲渡⑥(A社他13社のKG社に対するKR社持ち分の譲渡)が低額で譲渡されたため、KG社に受贈益が発生した。

各譲渡⑦(K社、X1のKG社に対する財産の譲渡)が低額で譲渡されたため、KG社に受贈益が発生した。

 

譲渡⑧(X1のKG社に対する財産の譲渡)が低額で譲渡されたため、KG社に受贈益が発生した。

ア KR社について

上記⑥における1口5,000円の譲渡が売買実例に当たれば、この金額が評価額となる。

しかし、(純然たる第三者との間で想定される取引の気配値とみなし得るような一般性のある取引とはいえない)売買実例に当たらない。

そこで、K社は、KR社の同族株主か、YESであれば、KR社持ち分の財産の評価方法について配当還元法ではない原則的評価方法になる。

ついで、譲渡の目的であるKR社の財産の主要な要素がK社株式であるので、KR社は、K社の同族株主か、YESであれば、K社の株式は、配当還元法ではない原則的評価方法になる。

イ KG社について

KG社は、KR社の同族株主であるので、KR社持ち分の財産の評価方法について配当還元法ではない原則的評価方法になる。

ついで、譲渡の目的であるKR社の財産の主要な要素がK社株式であるので、KR社は、K社の同族株主か、YESであれば、K社の株式は、配当還元法ではない原則的評価方法になる。

  

これらの問題は、本件においては、評価会社であるK社について、KR社が、X1の同族関係者に当たるか否かの判定に帰着する。

(2)K社の譲り受けたKR社の持ち分の評価方法

ア KR社の持ち分全体の評価方法

  KR社の持ち分の評価
(1) 原則適用(あるいは形式適用)(Xらの主張) KR社の持ち分の評価方法は、K社がX1の同族関係者でない場合は、配当還元方式で評価される(財産評価基本通達(以下、「評価通達」といいます。」188項、188-2項)。

同族関係者が保有するKR社の議決権率は32パーセント(注1)だから、KR社は、K社の同族関係者ではない。よって、同族関係者が保有するK社の議決権率は48%となる。よって、K社は、KR社の同族関係者ではない。したがって、KR社持ち分は配当還元方式で評価される。
(2) 不都合・修正の価値判断(課税当局の主張=地裁・高裁の判断) Kによる、K社の取引会社13社へのKR社の持ち分の譲渡以後も、Hら一族(X1及びKG社)は、KR社を実質的に支配してきた。
(理由)
Hら一族は、KR社の総出資口数の48パーセントの出資口を保有してきた
K死亡後、KR社の社員や出資口数に変更なし
上記13社は、K社との取引関係の強化または維持を継続のために出資口を譲り受け
上記13社は、議案に対し一切反対なし
(3) ルールの趣旨 評価通達178ただし書の趣旨:
「同族株主以外の株主等が取得した株式」については、特例的評価方式である配当還元方式により評価されることの趣旨は、評価会社を実質的に支配している株主が株式を取得する場合とは異なり、従業員株主などのような少数株主や、事業経営への影響の少ない同族株主の一部が株式を取得する場合については,これらの株主は単に配当の受領を期待するにとどまるものであり、また、評価手続の簡便性をも考慮して、本来の評価方式に代えて、特例的な評価方式によることとしたもの。
評価通達188(1)の趣旨:
「同族株主」につき、「同族関係者」は法人税法施行令4条に規定する特殊の関係のある個人または法人をいうと定めているのは、株式を取得した株主が、株主らの中でどのようなグループに属するのかを決めるに当たり、客観的かつ簡易な方法として借用したもの。
もっとも、評価通達188(1)がこれを借用しているのは、同族支配的な経営を行う株主か否かの判定のための基本的な基準となり得るものとする趣旨にすぎない。
法人税基本通達9-1-14が、上場有価証券等以外の株式について,評価通達の例によって算定した価額によっているときは,課税上弊害がない限りにおいてこれを認めるもの。

ある法人が、「同族関係者」と判定すべき特別の事情があると認められるときは、その法人が形式上は法人税法施行令4条2項各号が規定する会社に当たらない場合でも、評価通達188の適用上、法人税法施行令4条2項にいう特殊関係法人と同視して取扱う。
(4) 法律構成 同族関係者の判定にあたり、同族関係者らが判定対象の会社(KR社)を実質的に支配していると同視すべき場合は、その会社も同族関係者になると解すべき。

よって、K社は、KR社の(中心的な)同族株主となる。

そして、下記イを前提に評価すると、KR社は、評価通達によって評価した資産のうち株式の割合が高い類型である株式保有特定会社(評価通達189-3)にあたる。

よって、KR社の持ち分は、原則的評価方法である、純資産価額方式によって評価すべき。

イ KR社の財産の構成要素であるK社の株式の評価方法

  KR社の持ち分の評価
(1) 原則適用(あるいは形式適用)(Xらの主張) K社の株式の評価方法は、KR社がX1の同族関係者でない場合は、配当還元方式で評価される(評価通達188項、188-2項)。

同族関係者が保有するKR社の議決権率は32パーセント(*)だから、KR社は、X1の同族関係者ではない。したがって、K社の株式は配当還元方式で評価される。
(2) 不都合・修正の価値判断(課税当局の主張=地裁・高裁の判断) Kによる、K社の取引会社13社へのKR社の持ち分の譲渡以後も、Hら一族(X1及びKG社)は、KR社を実質的に支配してきた。
(理由)
Hら一族は、KR社の総出資口数の48パーセントの出資口を保有してきた
K死亡後、KR社の社員や出資口数に変更なし
上記13社は、K社との取引関係の強化または維持を継続のために出資口を譲り受け
上記13社は、議案に対し一切反対なし
(3) ルールの趣旨 上記アの評価通達178ただし書および評価通達188(1)の趣旨:

ある法人が、「同族関係者」と判定すべき特別の事情があると認められるときは、その法人が形式上は法人税法施行令4条2項各号が規定する会社に当たらない場合でも、評価通達188の適用上、法人税法施行令4条2項にいう特殊関係法人と同視して取扱う。
(4) 法律構成 同族関係者の判定にあたり、同族関係者らが判定対象の会社(KR社)を実質的に支配していると同視すべき場合は、その会社も同族関係者になると解すべき。

よって、KR社は、K社の(中心的な)同族株主(議決権率63%)となる。

よって、K社の株式は、原則的評価方法によって評価すべき。

(2)KG社の譲り受けた社の持ち分の評価方法

KG社が譲り受けたKR社の持ち分については、KG社がX1の同族関係者であるので、形式的に見ても、原則的評価方法になります。

しかし、評価対象であるKR社の財産の構成要素であるK社の株式の評価については、形式的には、KR社がK社の同族関係者にならないため、配当還元法になります。

そこで、上記(1)イと同じ争点に至ります。

そして、同じく、原則・修正パターンに至ります。

コメント

本件事件は、各法人の事業年度の所得の額を算出する前提としての非上場株式の評価の方法に関する争いです。

本件の争点が浮き彫りになる前提として、法人の取引の場合、「適正な価額」より低い対価をもってする資産の譲受けの場合にもその資産の譲受けに係る対価の額とその資産の譲受時における「適正な価額」との差額が、無償による資産の譲受けに係るものとして、収益(受贈益)になると解されています(法人税法22条2項)。この「適正な価額」とは,客観的な交換価値(不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額である時価)(以下、単に「時価」といいます。)をいうものと解されています。もちろん、法人は相場より安く資産を譲渡しても、譲り受けてもいいのですが(取引自由)、法人税法の適用上、得した分を益金として計上しなければならないのです。

では、非上場株式や出資の「適正な価額」とは何かといえば、法律は無言です。定義さえ言及していません。そこで、法人税法基本通達(2-3-4)が、同9-1-5、6を経由して、相続の際の評価基準である評価通達179以下を準用します(注2)。相続税の評価基準は、人の死を契機として発生する対価関係のない財産の承継です。一言でいえば便宜のために画一的にしらえたのが評価基準です。相続税の評価基準を、相続の場面とは性質の異なる、対価関係を構成要素とする取引の場面で準用、というより転用することにしたのです。

名うての「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は」(評価通達6)と「課税上弊害がない限り」(法人税基本通達9-1-4)を王者条項として君臨させることで、通達の形式的適用により、普通ではしないような取引をすることで絶税目的を達成されようとしている場合、言い換えれば、まじめな納税者に対して課税されるように(課税の公平)、通達を解釈・運用するのです。

これで、K家の相続対策、節税策に対す課税当局の処分が出そろいました。相続税、贈与税、そして今回の法人税、そのいずれもが、評価通達における会社に対する「支配」の認定の問題に帰結します。「支配」については、一応、形式的基準がありますが、それだけではなく、補充的に実質的に支配しているかを判断するということです。

ところで、上に述べたように、法人が低額譲渡により財産を譲り受けた場合(譲受人側についての問題)には時価との差額が受贈益になるという命題が与えられていますが、個人については、同様、金銭以外の経済的利益について、適正な価額をもって、「収入すべき金額」とすることから、同じ論理が成り立ち得ます。もっとも、相続税法と所得税法の適用領域を配分する観点から、譲渡人が個人の場合は、みなし贈与の守備領域となります(相続税法7条)。

これらは、譲受側から見た収益の存否の問題ですが、反対に、譲渡側についても問題になります。法人の取引の場合、時価との差額(譲渡代金)が益金から漏れていたことになり、同額が益金に上げられます。他方、同額は寄附金になりますが、必ずしも、その全額は損金として認められません(法人税法37条1項)。ところが、本件一連の事件では、譲渡会社であるK社(⑦)には、損金に算入されなかった金額に対する更正処分もあり得ました。また、これに対し、個人の場合、「資産の譲渡の時における価額」(=時価)の半額未満の対価で譲渡した場合には、時価で譲渡したとみなされ、譲渡所得税が課されます(みなし譲渡)(所得税法59条1項2号同施行令169条)。本件では、Hについて、KR社持ち分について、時価81,287円/口のところ39,235円/口の対価で譲渡したことになり、みなし譲渡所得課税があったとして更正処分もあり得ました。

さらに、本件で、KG社が主張していたことですが、A社他13社がKG社に対し譲渡したKR社持ち分(5,000円/口の対価)(⑥)について、時価が8万1,177円だから、一口当たり7万617円の受贈益が生じたとされたことに対し、A社らには、漏れた益金-損金算入できた寄附金の額が課税されていない(認定課税)のだから、他方当事者であるKG社は、経済的利益を受けていないという反論がありました。これは、一物一価を前提にしていると思われます。

先ほど、「適正な価額」とは、「客観的」な価値といいましたが、実は必ずしもそうはなりません。すなわち、評価通達とこれを準用する法人税法基本通達と所得税法基本通達なのですが、通達の文言に沿って計算すると、同じ非上場株式でも、誰が取得するか(支配株主と非支配株主)により価格が異なるところ(一物二価あるいは相対価格)、譲渡人と譲受人のいずれから見るかで、それぞれの時価が異なってしまうことがあります。少なくとも非支配株主であることがはっきりしているA社らの立場から見た時価と支配株主であるKG社の立場から見た時価は異なります。本件の場合、KG社について、安い対価でそれだけの時価の持ち分がKG社に対して移転しているのであるから、担税力が増しているので、益金があったとしてもいいとしても、A社らについて、実際に受け取った対価が売買実例として不適格で時価とはいえないとされていながら、この価格を前提に課税が調整されないのも座りの悪いところです。譲受人と譲渡人の組み合わせで、どう処理するか、難しい組合せはたくさんあります。

非上場株式の低額譲渡の場合、フルコースで課税がなされた場合、一つの財産の移転に関し、利益を受けている譲受した会社だけでなく、利益を得ていない譲渡した人や会社が納税義務を負い、譲受会社を介して間接的に潜在的な利益を受けただけなのに譲受した会社の出資者(株主等)も課税される事態となり得ます。これは何とも納税義務者にとって酷なことです。結果的に同一利益帰属主体に対して、実質同じ利益について複数の課税がなされてしまうときは、立法政策の限界を超え、財産権侵害や平等原則違反になること、課税実務の効率性の確保等から、フルコースの執行は実施されにくいと思われますが、どれを選択されてもおかしくないということはいえるかと思います。

畢竟するに、時価は、評価通達によって、人(法人も含む。)ごとに決められ、かつ、利益を得たと評価(認定)される場合に課税されるので、特に、同族会社間の組織再編成については、慎重な配慮が必要になります。

本件一連の事件の解説は以上で完結します。

 

注1 本件各譲渡時、ある法人が他の法人の同族関係者である株主に当たるかについて、通達では、前者の株式の総数ではなく、議決権が基準となり、議決権総数に対する議決権数によっていました。

現在の通達の依拠する現行法(法人税法施行令4条)によれば、KR社について、株式の総数も判断基準になっているので、同族株主の議決権率は、64%となり、K社の同族株主となります。  

注2 現行の法人税基本通達では、2-3-4→4-1-5と4-1-6→評価通達178以下が準用されています。現行の所得税基本通達では、59-6→23~35共-9(4)となっています。

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