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税務判例フォローアップ

令和3年7月7日

43.役員報酬が「不相当に高額な部分」に該当するか否かはどう判断されるか? その2

会社の役員の報酬は、定款で定めるか、株主総会の決議で決めることが要求されています(会社法361条1項)。そして、役員報酬は、必ずしも全額損金算入されるわけではありません(法人税法34条)。その支給の態様毎に、①定期同額給与(法人税法第34条1項1号)、②事前確定届出給与(同項2号)、③利益連動給与(同項3号)と分類し、それぞれについて、損金算入の要件が定められています(その基本的な要件については、こちらこちら)。うち、多くの企業において、通常、実施されているのは、①定期同額給与によるものです。

 

多くの企業においては、株主総会の決議で決めることになっていますが、中でも、よく問題になるのが、報酬金額の実質的に不相当に高額な部分の支払(以下、「実質的相当性の要件」といいます。)です。これは、役員の職務の内容、会社の収益、従業員に対する給与の支払状況、同種事業で事業規模が類似する会社の役員に対する給与の支払状況等に照らして判断する基準です(法人税法34条2項、同施行令70条1項イ)。この基準に照らし、相当と認められる額を超える部分が損金不算入となるわけです。

 

この基準は、何とも抽象的で裁量の余地が多く、適用の段階でのデータの抽出方法について、なかなか納得しにくいものです。課税庁が未公開のデータベースから一定の基準で抽出した類似の企業数は、大体、何十社もないくらい少なく、言い値の抽出基準(本件も、審査対象の会社の売上の倍から半分の会社を抽出の候補とする、いわゆる倍半理論)に基づき、仮に抽出基準が正しいとしてもその基準通りに抽出されたかどうかよくわからない、法令上の根拠はない基準です。日本の裁判実務では、総額主義がとられているため、課税庁の判断が正しいかは、課税当時だけの資料に基づくものではなく、不服審査時、裁判時、それぞれで、根拠となる資料を提出してきます。

今回紹介する裁判例では、甲の売上に対する貢献度が絶大(X社の受注の8~9割を獲得)ではあったものの、甲の役員給与は、他の役員に支給された役員給与と比べて著しく高額(甲が4億円に対し、他の役員は3,000万円程度)であるばかりでなく、X社の収益が、各事業年度を通じて減少傾向にあり、使用人に対する給与の支給額も横ばいないし緩やかな減少傾向にある中で、これに逆行する形で急増しており、その結果、X社の営業利益の大部分を占めること(問題とされた事業年度前の18%から98%に増大)となって、X社の営業利益を大きく圧迫していたことが認定されました。

その上で、従来、「不相当に高額な部分」に当たるのは、各抽出法人の役員給与の平均額を超えた部分であるとされることが一般的でした。そもそも、その平均額を超えている抽出企業も同類ではないかと思われるのですが、そうはなっていません。

ところが、本裁判例は、X社の同業類似法人の抽出が必ずしも厳密な事業の規模ないし性質の同一性の要求の下にされたものでないことや、原告の売上げを得るために甲が果たした職責及び達成した業績等の本件における事情に鑑み、各抽出法人の役員給与の最高額を超える部分をもって「不相当に高額な部分」に当たるとすべきとしました。ちなみに、甲は、マレーシアの客引きで、X社の受注の8~9割を獲得している一方、従業員は、落札業務やシッピングなどの事務手続がほとんどであったようです。

前にも述べたように、一般論としては、課税庁がとっかえひっかえ、秘密の袋から道具を出してきて、裁判所が無批判的にその全部の資料を認めるという現状は、予見することもできず、武器が対等でなく、何とも納得のいくものではありません。

とはいえ、本件については、比較基準の正当性にかかわらず、あまりに役員給与の支給額をほしいままに決定し、法人の所得の金額を殊更に少なくすることにより、法人税の課税を回避しているといえるでしょう。役員報酬の決定にはテールリスクがあります。

とかく、争訟の場および学識者の批評において実質的相当性の比較基準の正当性等が問題視されているところ、近時、同業類似法人における最高額が基準として採用される傾向にあるようです。

 

参考

* 事案を分かりやすくするため、簡略化及び補足(修正)しています。

法人税更正処分等取消請求事件 

平29(行ウ)371号 令和2年1月30日 東京地裁判決

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