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プロボノ活動

平成24年11月19日

消費者問題 その2  弁護士吉田実

前号では、当初は消費者事件とはみられなかった投資被害が、平成初期のバブル経済崩壊後に個人投資家から被害救済を求める声が寄せられて弁護団ができ、私はそこで消費者弁護士としてのスタートを切ったことを述べました。

ところで、従前にも投資被害の裁判例はありましたが、それまでに裁判所で投資家が勝った事件と言えば、証券会社担当者の詐欺や横領、無断売買の事例など、事業者側の違法性が明白なものがほとんどであり、説明義務違反などが中心論点として争われた事件での勝訴例はほとんどありませんでした。このころは民事法制の上でも、商品内容についての説明義務を定めた規定はなく、大手証券会社であっても、顧客に対する説明義務があることを争い、商品説明は法的義務ではなく顧客サービスであるなどと主張されていました。現在では「説明義務」の法理が確立して法制化され、事業者は詳細な説明を行ったうえ、分厚い書面を交付し、かつ、その都度確認書に記載を求めるなど、「説明義務」の履行とその証拠立てに熱心ですが(形式的にそれを行っているだけで本当に投資家が中身を理解しているかどうかの確認がきちんとなされているか疑問な場合もあります)、当時の状況からすると嘘のような話です。

それでは、なぜ「説明義務」などということがやかましく言われるようになってきたのでしょうか。以下にその理由を述べてゆきます。

近代私法では、対等な当事者相互が合理的に判断した結果としての意思表示の合致(契約)というものに拘束力を持たせます。民法では、これを裏から見て、合理的な判断が期待し得ない人として、未成年者や成年被後見人などをあげ、合理的な判断ができなかった状況として、詐欺や脅迫などの制度を設けて、これらの場合に契約(意思表示)の取消が出来ることとしています。しかし、複雑高度な現代経済社会における事業者対消費者の関係においては、事業者側が圧倒的な情報力と専門性を持ち、消費者が対等に交渉できるような状況にはありません。従って、事業者対消費者の法律関係を民法原理だけで解決してしまうと、結果として不合理になってしまうことがありえます。

対等な当事者相互の関係では、物を買うときは、買い手の方が、それがどんな物か、どのような特質があるか自分で調べて、注意して買うようにせよ(買手注意)という前提があります。従って、買い手が不注意で物の性質を十分理解しないで購入し、その結果損失を被っても、それは自己責任とされるのです。しかし、現代における事業者対消費者の契約関係においては、新しい商品やリスクのある商品については、売り手の方が、それがどんな商品か、これまでと違ってどんな特質があるのかを買い手によくわかるように説明して売るようにせよ(売手注意)という考えが生まれてきました。これが商品の説明義務というものを観念する理由です。この考え方からすると、売り手が説明を尽くさず、買い手にリスクを理解させずに商品を購入させ、損害を生じさせた場合は、その損害を賠償すべきであるという流れに変わってきたのです。

これは当たり前と言えば、当たり前の話ですが、法律の世界でこれが一般化してきたのはまだ平成に入ってからなのです。

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