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プロボノ活動

平成24年11月30日

市民相談窓口  弁護士西村良明

私は、弁護士会の仕事の一つとして、「市民相談窓口」の担当員をさせて頂いております。

「相談窓口」とは言っても、いわゆる法律相談ではなく、弁護士に対する疑問や苦情をお聞きする窓口です。担当員には、苦情を解決する権限や能力はありませんが、疑問に対してはお答えすることが出来る場合もありますし、何らかの「行き違い」が生じていると思える場合は、説明すれば納得して下さる場合もあります。苦情が「重大」な場合は、内容を、弁護士会のしかるべきか所に送付することもあります。広く知られているとも言い難い「窓口」ですし、ここに相談すれば、弁護士に対する不満はすべて解決する、というものでもないのですが、まずは、そういう「窓口」も用意されていますという紹介をさせて頂きます。

意外なことに思われるかもしれませんが、苦情の対象になる弁護士としては、紛争の相手方代理人の弁護士の場合より、むしろ、自分が依頼した弁護士に対する苦情のほうが圧倒的に多いのです。私ども担当員は、紛争の相手方代理人に対する苦情が持ち込まれたときは注意深くなります。相手方代理人は、相談者の「敵方」になりますので、苦情が持ち込まれたということが、その代理人に対する無用な圧力になってもいけないからです。しかし実際にはそういう例はあまりありません。

自分が依頼した弁護士に対する苦情が何故多いのかを、私なりに分析してみますと、圧倒的に多いのが「コミュニケーション不足」です。ちょっと説明すれば(説明を受ければ)苦情には至らないものを、説明しない(説明を求めない)ために、依頼者には鬱々とした不満として残ってしまい、事件が終わった段階でそれが苦情として表面化することが多いように思います。

では何故そのようなコミュニケーション不足が生じるのかを考えると、失礼ながら圧倒的に多いのは、依頼者側の理解不足です。つまり、弁護士がおかしなことをしているという例もないではないのですが、その数はむしろ少なくて、市民相談窓口の担当者が説明すると理解して頂けることの方が多いのです。

しかしながら、依頼者側の理解不足とはいっても、何故理解不足が生じるのかを考えていくと、弁護士の説明不足に行きあたることも多くあります。依頼された弁護士は、やるべきことをやってはいるのですが、「何故、今、これをするか」の説明をしないために、(特に結果が悪いと)依頼者は不審を感じてしまい、「すべきことをしなかったんじゃないか」と不満を持たれることにもなるわけです。こうなってしまうと、後から説明しても、依頼された弁護士の説明では「言い訳」のように受け取られてしまいますし、弁護士の方は、「やるべきことはやっている。難癖を付ける気か。」ということにもなるわけです。市民相談窓口の担当弁護士は、いわば第三者なので、その説明なら納得して頂けることもあるわけです(それでも、「やはり、同じ弁護士だから庇っている。」という反応を示されてしまうこともありますが)。

弁護士は、よく医者と対比されますが、「医師の説明義務」はよく話題になり、我々弁護士も、「説明義務違反」を根拠に医師を訴えることもあるわけです。ところが、「弁護士の説明義務」はあまり問題になることはありません。これはおかしなことのように思われます。

法律家同士の会話なら、専門用語を使った方が、意味が分かり易いのですが、法律のことなど分からない人に同じことを説明しようとすると、専門用語が使えませんので、倍以上の時間がかかります。それが面倒なので、説明しない弁護士がいるのかもしれませんが、弁護士も、「やることをやっているのだから問題はない。」というものではないことを理解すべきだと思います。「市民相談窓口」の担当員は、苦情をお聞きするという点では、楽しいものではありません。

しかし、「他山の石」ではないですが、市民の方々が、弁護士のどういうことに不満を持たれるのかが分かるという意味で、大いに参考にさせて頂いております。

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