平成25年6月27日
「調停委員」という言葉をお聞きになったことはおありかと思いますが、「調停協会」については御存じない方も多いと思いますので、ご紹介致します。
調停委員は、離婚などの家事紛争を担当する家事調停委員と、一般民事紛争を担当する民事調停委員に分かれます。身分としては裁判所の非常勤職員になります。従いまして、一応はお手当も頂きます。
調停協会は、裁判所の機関ではなく、調停委員を主たる構成員とする任意団体なので、会員になる、ならないは調停委員の自由です。会費を支払う義務はあっても、会費は調停協会の運営費用に使用され、例えば調停協会の理事や各種委員になったからと言って、一切報酬はありません。ちなみに、私は大阪家庭裁判所の家事調停員をさせて頂いており、同時に大阪家事調停協会の会員でもあります。昨年は理事を、本年は評議員をさせて頂いておりますので、私の属する大阪家事調停協会を例にとってご説明致します。ちなみに、当事務所の安元弁護士も、大阪家庭裁判所調停委員、大阪家事調停協会会員でもあり、各種役職を務めております。
家事調停協会は何をするところなのかといいますと、裁判所、弁護士会との意見交換、調停委員としてのスキルアップのための各種講演会、研修会などを行っております。裁判所には、裁判所から見た調停のあり方像というものがありますし、その観点からの、調停委員に対する裁判所主催の研修もあります。弁護士は、当事者の代理人として調停に関与しますから、当事者の代理人から見た調停のあり方を考えています。敵対関係ではなく、「より良い調停」に対する、立場の相違というものがあるだけです。同じように、調停委員には調停委員としての考え方があるわけで、それぞれのご意見を参考にしながら、「より良い調停」を目指して行こうということで、定期的に意見交換が行われています。
調停の基本は、当事者自らが、問題点を把握して、それに対して、自らが解決方法を見出して行くという手続だということです。調停委員は、問題点を整理して、当事者が自ら合意可能な解決方法を判断して行くことのお手伝いをするだけです。裁判官が法と証拠によって解決方法(結論)を判断する裁判とは、そこが違います。調停は、(たとえ善意に基づくものであるとしても)調停委員が解決策を押し付けるものであってはならないわけです。
とはいっても、「では調停委員は、具体的に何をすればいいのか」ということになれば、ことはそれほど簡単ではありません。「各調停委員ひとりひとりの心がけ」は勿論必要ですが、心がけが良ければ問題が解決するというものではありません。
残念ながら日本では、「調停学」という分野がまだ成熟していません。しかし調停には調停の理論に支えられた技術があり、調停委員にはその習得が望まれます。当事者間のみでは解決できなかったから調停が申し立てられたのであり、多くの場合感情的になっている当事者に、何が解決しなければならない問題なのかを理解し、判断して頂くにも、それなりの技術が必要です。また、家事事件手続法が制定されましたが、勿論法律の勉強も必要です。調停委員を対象とした各種講演会や研修会の開催はそれらのためのものです。
調停委員については、残念ながら、「暇人が、小遣い稼ぎのためにやっている」という誤解も一部にはあるようです。しかし、調停委員をお金目的でしている人は、おそらくいません。私にしても、収入を得るという目的なら、弁護士業に専念した方がましです。お金のことを言い出せば、一円にもならない活動を、「より良い調停を目指す」ために、調停協会が行っていることを知って頂きたいと思い、ご紹介申し上げました。
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