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企業支援エトセトラ

令和2年9月29日

24.キャッシュレス決済の分類②

前回に引き続き、各種決済方法について、その特徴から、ある程度細かく、分析、整理していきたいと思います。

なお、以下で言及するのは、平均的な取引形態であり、つまるところは、個々の契約または取引約款により法律関係は決せられ、これに伴い、経理処理も異なり得ます。

電子マネー

3.1. 基本的仕組み

比較的最近にできたタームですが、法律上の定義はなく、統計、事業者、評論家によって、どの範囲を射程にするか、まちまちです。そこで、一応の整理をするためという断りで、利用者が、商品・役務の購入に際し、自己が利用者である電子マネー発行会社による電子的経済的価値の移転により、同じく利用者である同発行業者の加盟店に対し、対価である購入代金を決済してもらう方法とします。例えば、事業系では、楽天Edy、交通系では、SUGOCA, ICOCA. PASMO, Suica, Kitaca、流通系では、WAON, nanacoなどです。

ICカードやサーバ上に、あらかじめ現金や預金と引き替えに電子的経済的価値を登録しておき、取引時に代金に相当する電子的経済的価値をやり取りすることで支払います。以下では、ICカードを利用した場合を例にとり説明します。

・ICカードの場合、利用者は電子マネー発行会社から、予め、電子マネーを購入(チャージ)しておく。

・利用者は加盟店に対して電子マネーによる購入を申し込む。

・利用者は電子マネー発行会社に対して電子マネーによる送金を依頼する。

・加盟店は、商品・サービスを引き渡す。

・電子マネー発行会社は加盟店に対し、代金相当額について銀行口座振替を行う。なお、電子マネー発行会社の手数料は差し引かれる。

 

債権債務関係(法律関係)についてみます。クレジットカードの場合と異なり、電子マネー発行会社が加盟店に対し、代金を立替払いするとか、加盟店が電子マネー発行会社に対し、加盟店の会員に対する代金債権を譲渡し、その対価として、電子マネー発行会社が加盟店に対し、上記代金を支払う、などとは考えられません。売買契約に先立ち、利用者は電子マネー発行会社から電子マネーを購入することで、電子的経済的価値を登録しておきます。その上で、電子マネー発行会社が加盟店に対し電子マネーを移転させることで、加盟店の利用者に対する相当額の代金債権が消滅し、また、利用者の電子マネー発行会社に対する相当額の電子マネー利用権が消滅することになります

 

3.2. 種類

電子マネーは、種々の観点から、整理することができますが、特に、後にお話しする資金決済法による規制との関係で以下の2つの観点が重要になります。

(1)どこに経済的価値を記録するか

経済的価値をどこに記録するかにより、2つのタイプに分かれます。ICカード上に保存するものと(IC型)、サーバ上に保存するもの(サーバ型)とに分けられます

IC型の場合は、入金することで、ICチップ内に経済的価値が記録されます。IC型を使用する際には、加盟店の店頭で提示し(読み取り機に読ませ)、ICチップ内の価値を減算します。また、減算した分の価値に対応して、ネットワークを通じて電子マネー発行業者のシステムにおいて加盟店に対して支払うべき価値が加算されます(加盟店手数料の差引)。ICチップがカードと一体になっているのではなく、モバイル端末に付加されている場合は、おサイフケータイと呼ばれています。

これに対し、サーバ型の場合、電子マネー発行会社の管理するサーバの記録媒体内に経済的価値が記録されます。電子マネーを利用する権限は、IDをサーバ側に送信することにより識別します。支払時にはサーバ側で利用者の保有する価値を減算する処理がなされ、これに対応して、電子マネー発行会社が加盟店に支払うべき価値が加算されます。コンビニエンスストアで販売されているサーバ型プリペイド電子マネーギフ卜券が典型です。例えば、iTunesカード、LINEプリペイドカード、Google Playギフトカードなどがあります。Google Playギフトカードの場合、カードの裏面に記載されたギフトコードを入力することで一定の金額がGoogle Playにチャージされ、Google Playを介して提供される各種コンテンツやサービス料金の支払い手段となります。国際カードブランドの発行するICチップが付加されたカードは、実は、サーバ型のようです。カードとカード内のICチップが表章するのはカードの利用権限や口座を特定するための記号番号(= ID)のみで、サーバ上に経済的価値が記録されるためです。

(2) 発行者の店舗以外でも利用できるか

電子マネー発行者の店舗以外でも利用できるかにより、2つのタイプに分かれます。発行者の店舗においてのみ利用することができるもの(自家型、発行者を自家型発行者といいます。)と、発行者以外の第三者の店舗(加盟店、フランチャイズ店等)においても使用することができるもの(第三者型、発行者を第三者型発行者といいます。)に分けられます。最初に電子マネーの例で挙げたものは、汎用性の高いものであり、実は、第三者型ばかりでした。自家型についても、小売業者、ホテル業者、旅行業者など多くの企業が販促のため発行しています。

 

暗号資産(仮想通貨)

「暗号資産」は電子マネーでしょうか。「暗号資産」の呼称は、もと、「仮想通貨」(virtual currency)と呼ばれていましたが、G20など国際舞台では「暗号資産」(crypto asset)という表現が用いられ、また、法定通貨との誤認防止のため、「暗号資産」に呼称変更されました(令和元年改正資金決済法2条)。そこで、「暗号資産」というタームを用います。その定義は、ネットワーク、代表的には、インターネットを通じて①流通する(転々流通性)②決済の手段(決済手段)であって、③国家の裏付けを有しないものといわれます。新しいタイプのお金です。ビットコインに代表されるような、発行主体のない分散型のブロックチェーンに裏付けられた取引記録自体に貨幣的価値を認める現象です。暗号資産の種類は、多数ありますが、例えば、ビットコイン、ビットコインキャッシュ、イーサリアム、ネムなどが著名です。

 

暗号資産交換業者に、あらかじめ現金や預金と引き替えに電子的経済的価値を登録しておき、取引時に代金として電子的経済的価値で支払います。以下では、ブロックチェーンを前提とする暗号資産を対価として支払った場合のうち典型的な例を引用して説明します。

現実に、暗号資産は質量をもたず物理的に交付されません。しかし、電子的な記録として、管理され、観念的に移転するため、暗号資産交換業者→購入者→販売者に転々流通するイメージで表しています。

・利用者は、暗号資産交換業者から暗号資産を購入する。
(まず暗号資産交換業者にアカウント(口座)を開設し、暗号資産を購入します。購入した暗号資産は、暗号資産交換業者のウォレットに保管されます。)

・利用者は、加盟店で、店舗備え付け端末のQRコードをアプリケーション(ウォレットアプリ)に読み込ませる。
(この手続により代金と送金先のアドレスに関する情報が取り込まれます。)

・利用者は、暗号資産交換業者に対し、暗号資産の送金を依頼する。

・加盟店は、商品・サービスを引き渡す。

・暗号資産交換会社は加盟店に対し、暗号資産の口座振替を行う。なお、暗号資産交換会社の手数料は差し引かれる。

 

上記の電子マネーは、利用者が決済のための価値の移転を第三者に対して指図する場合にその指図を電子的な方法により行うものです(決済方法の電子化)。これに対し、暗号資産では、利用者の保持する電子機器に記録されたデジタルデータそれ自体が価値を有する場合です(決済手段の電子化)。このようにその機能と特徴を捉えれば、いわゆる電子マネー以上にマネーであり、それ故、先の電子マネーには当たらないことになります。

 

債権債務関係(法律関係)についてみます。以上見てきた電子マネーによる決済方法と似ています。売買契約に先立ち、利用者は暗号資産交換業者から暗号資産を購入することで、電子的経済的価値を登録しておきます。その上で、暗号資産交換業者が加盟店に対し、預けてある利用者の暗号資産を移転させることで、加盟店の利用者に対する相当額の代金債権が消滅します。観念的にみて、電子マネーを利用する場合よりも、購入者が販売者に対し、対価(貨幣的価値)を支払い商品・役務を購入するという単純な売買契約に近い形です。

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