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企業支援エトセトラ

令和4年12月9日

47.クレジットカード加盟店の責任

決済の原始的な形態は、売買の相手方に対し、商品と引き換えに対価としての現金を支払うことです(COD)。ところが、今や、クレジットカードだけでなく、電子マネー、デビットカードなどのキャッシュレス決済、すなわち、現金を用いないで決済をする傾向が急速に進んでいます。

そのうち、クレジットカードによる決済は、会員が、商品・役務の購入に際し、自己が会員であるカード発行会社のクレジットカードを利用し、購入代金相当額を立て替えてもらう(信用の供与)決済方法であり、他の決済方法において、シンプルに決済事業者等から支払の便宜を提供してもらうのとは異なります(こちらをご覧ください)。

クレジットカードの加盟店が、カード発行会社との加盟店契約に違反したため、加盟店が、会員の立替金に係る残債務の支払を請求される事件がしばしば報告されています。

そこで、カード発行会社と加盟店との典型的な契約条項(取引約款)とこれに違反した場合のペナルティの例についてみていきたいと思います。

なお、法令による規制については、キャッシュレス決済のトラブルのリスクと規制①をご覧ください。

 

加盟店の義務

 

2.1. 一般的義務

 

(加盟店契約の内容)

クレジットカードによる立替の原因となる取引(以下、「原因取引」といいます)またはクレジット契約の内容につき不実の事項を告げたり、不利益となる事実を故意に告げなかったり、または顧客に対して実際にその商品が有する以上の機能・性質があるように見せかけて勧誘したりするなど顧客を誤認または困惑等させるような不適切な勧誘およびその他不正不当な勧誘方法を使って、原因取引に係る契約またはクレジット契約を締結させることの禁止。

  

2.2. 担保権(留保所有権)を侵害させない義務

 

(加盟店契約の内容)

例えば、原因取引が売買契約の場合は、売買の目的物の所有権は、クレジット契約に基づくカード会員(顧客)のカード発行会社に対する債務を担保するため、カード発行会社と加盟店との間で代金決済をすることにより加盟店からカード発行会社に移転し、顧客がその債務を完済するまでカード発行会社に留保される。加盟店は、売買の目的物が自動車等登録を要するものである場合、原則として顧客名義で登録する。

加盟店は、担保権の実行を困難ならしめる行為(例えば、担保権を消滅させたり、担保目的物を損傷したり、担保目的物の所在の把握に支障を生じさせる)を行ってはならない。

 

2.3. 原因取引に関する紛議の解決に努める義務

 

(加盟店契約の内容)

加盟店と顧客との間で原因取引に関し紛議が生じたときは、全て加盟店の負担と責任においてこれを解決する。

クレジット契約に基づくカード発行会社の顧客に対する支払請求に対し、顧客が(支払停止の抗弁)(抗弁権の接続参照)を主張したときは、カード発行会社は、加盟店に対してその旨を通知し、加盟店は、直ちにその抗弁事由の解消に努める。

カード発行会社からの抗弁に係る紛議の解決を求める通知から相当期間を経過してもなお、これが解決されていないような場合、加盟店は、紛議解決義務に違反したといえる。

 

加盟店契約違反時のペナルティ

3.1. 債務引受け  

(加盟店契約の内容)

加盟店は、信販取引に関し加盟店またはその従業員等に加盟店契約の違反行為があったときは、当然にそのクレジット契約上の債務を顧客と重畳的に引き受け、残債務全額を直ちに一括してカード発行会社に支払う。

 

3.2. 加盟店代表者のカード発行会社に対する連帯保証契約  

(加盟店契約の内容)

加盟店代表者は、加盟店契約に基づき加盟店がカード発行会社に対して負担する一切の債務について、加盟店と連帯して保証する。

 

問題になった例

加盟店は、協力者と意を通じて、トライクのレンタルオーナー制度(預託商法)を実施した。協力者は、信販会社のクレジットを利用してトライクを購入すれば、そのトライクを借り受けて、信販会社への分割支払金を上回るレンタル料金を支払うとして、トライク購入希望者の募集をした。募集に応じてきた顧客は、信販会社との間でトライクを対象商品とする立替払契約を締結してトライクを購入し、加盟店は、信販会社からトライクの代金に相当する立替金の支払を受けた。その顧客は、購入したトライクを自分で使用することなく、その協力者にトライクを貸し渡し、その対価としてその協力者から信販会社への立替金分割支払金を上回る賃料の支払を受ける旨の契約を締結した。また、協力者は、顧客が購入したトライクについてその顧客への所有権移転登録がされた直後に、その顧客に対して、信販会社への立替金債務が残っている状態でトライクの買取りをすると申し出て、その協力者への所有権移転登録を行い、同じトライクを利用して、新たに募集に応じてきた別の顧客に、上記と同様の一連の契約(信販会社は当初の顧客のときとは別の会社)を締結させる等していた。

本件裁判では、加盟店と加盟店代表者のカード発行会社に対する、上記の各契約上の責任(支払いを拒んだカード会員の残債務の履行)が認められました(東京地裁平30(ワ)23338号 令和2年9月29日 民12部判決(確定)参照)。

 

* 上記矢印の解釈は、上記判決中で示された解釈です。

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