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個人情報保護法

令和5年1月14日

13.個人情報保護法について⑫ ~退職者の個人情報~

今回は、退職者の個人情報についてです。特に、退職した従業員の履歴書等の個人情報をいつまで保管しておけば良いのか気になる会社も多いと思います。以前に厚生労働省から出されていた指針の内容も含めて、退職者の個人情報の取り扱いについて解説いたします。

退職した従業員情報の保管

 

(1)退職した従業員の個人情報に関する資料としては、履歴書や賃金台帳、社会保険及び雇用保険関係の書類、税務関係の書類、さらに健康診断結果等さまざまなものが挙げられます。

① まず、健康診断個人票は、一般健康診断含め概ね5年間の保管が必要です(労働安全衛生規則)。但し、一部の特殊健康診断については、長期間の保管が必要になることがあります。具体的には、特定化学物質健康診断の特別管理物質、電離放射線健康診断、除染等電離放射線健康診断は30年間、石綿健康診断は40年間、じん肺健康診断は7年間の保存義務があります。

なお、健康診断の情報については要配慮個人情報に該当し、原則、取得には本人の同意が必要ですが、法令に基づく場合は例外とされています。それでも長期間の保管が必要になる場合は、退職後も法令で必要とされている期間は保管する旨を説明しておくと良いでしょう。

② 次に、労働基準法109条によると、「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を五年間保存しなければならない。」と規定されています。なお、同条は令和2年の改正によりその期間が3年から5年間となりましたが、当分の間は3年とされています。これは、賃金の請求権が同じ改正により2年から5年になり、当分の間は3年とされていることに対応しています。つまり、賃金の請求権を基礎づける根拠資料となる書類についても保管期間をあわせているわけです。

よって、労働者名簿や賃金台帳等について、現在は3年間の保管で足りますが、将来的には5年間になりますので、今のうちから5年間保管するべきと認識を改めておいた方が良いでしょう。

では、履歴書はいつまで保管する必要があるでしょうか

履歴書は、上記条文でいうと、「雇入れ」に関する重要な書類に該当します。そして、労働基準法施行規則56条3項において、起算点は、「雇入れ又は退職に関する書類については、労働者の退職又は死亡の日」とされていますので、退職日から起算して5年間保存しなければなりません

③ その他、健康保険・厚生年金保険に関する書類は2年、雇用保険の被保険者に関する書類は4年、源泉徴収簿、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書などの書類は7年が保存期間とされています。

各書類によって、保管期間が異なりますので、期間経過後に速やかに廃棄できるように、廃棄予定年月日を記録した上で整理して保管しておくことをお勧めします。

(2)厚生労働省は、「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン(事例集)」の中で、退職時点における個人情報の適正な取扱いを確保するための留意点について規定していました。

その内容は、以下の通りです。

① 退職者の個人情報については、賃金台帳等の一定期間の保存を定めた労働基準法第109条等他の法令との関係に留意しつつも、利用目的を達成した部分についてはその時点で、写しも含め、返却、破棄又は削除を適切かつ確実に行うことが求められる。仮に利用目的達成後も保管する状態が続く場合には、目的外利用は許されておらず、また、その後も継続して安全管理措置を講じなければなりません

② 退職者の転職先又は転職予定先に対し当該退職者の個人情報を提供する事は、第三者提供に該当するため、予め本人の同意を得なければなりません

つまり、退職者の情報について、いつまでも保管しておくことは適切ではなく、法令に基づく保管期限を経過した場合には、消去ないし廃棄すべきということです。仮に長期間保管しておく必要がある場合には、利用目的を明確にした上で保管する必要があります。その場合でも、仮に退職者に何らかの債務不履行があり会社に損害が生じた場合を想定して、債務不履行による損害賠償債務の時効期間である10年を保管期限の一つの目安にするのが良いかと思います。10年を経過した時点で、なお保管の必要があるかは慎重に検討するべきでしょう。

なお、上記「雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン」は、平成29年5月30日をもって、個人情報保護委員会の個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)他3編のガイドラインに一元化されることに伴い廃止されましたが、その内容は今も有効であると思います。

(3)退職者の個人情報を保管する場合は、安全面に配慮する必要があります。

退職者の情報を紙で保管する場合は、管理する場所には必ず施錠する、社内で退職者情報を取り扱うことができる人物を限定する、保管場所は関係者以外が簡単に見つけられないところにする、といった対策が必要です。また、必要な情報を取り出せるように、個人単位で50音順で整理するなどの工夫が必要でしょう。電子化して管理する方法もありますが、例えばpdfファイルにする場合にはパスワードを設定するなどの配慮が必要です。

(4)最近では「アルムナイ採用」といって、何らかの理由で退職した人を再雇用したり業務委託を行うことで新たな価値を見出そうとする傾向があります。勤務経験があることから、その会社の理念や目標を理解していることに加え、勤務実績をもとに採用の失敗を回避できるだけでなく、即戦力としての活躍が期待できるといったメリットがあります。

そこで、法定保存期限を超えて退職者情報を保管する必要がある場合には、退職者に関わる個人情報の利用目的を予め規定しておきましょう。例えば、具体的に、会社から案内等の送付や問合せ、給与支給や社会保険業務に関わる連絡、在職中の社内経歴、勤務・就業状況及び安全管理状況等の把握などといった項目を挙げておきます。

また、退職者の個人データを個人情報保護法27条に基づき第三者に提供することがある場合は、その目的(広報活動や名簿や社内報の作成など)、対象となる個人データの項目(氏名、社内経歴等)、第三者提供の手段・方法(電磁的記録を含む文書等での配布など)を規定しておきます。また、第三者提供の停止を希望する場合の連絡先も明記しておきます。

そのほか、退職者からの個人情報に関する問合せ窓口を明記した上で、開示や利用停止、訂正等の請求手続を行う場合の方法についても明らかにしておきましょう

退職者からの利用停止等の請求

退職した社員から、利用する必要がなくなった場合に該当するとして保有個人データの消去を求められた場合には、取得時に特定した利用目的の範囲内で利用することは可能ですが、当該利用目的が達成したときには、当該請求に応じる義務があります

なお、令和4年施行の改正により、個人情報の利用停止や消去等を求める個人の請求権について、目的外利用や不正取得などの一部の法違反の場合に加えて、個人情報を利用する必要がなくなった場合や、重大な漏えい等が発生した場合及び個人の権利又は正当な利益が害されるおそれがある場合にも拡充されます。個人の権利又は正当な利益が害される恐れがある場合とは、例えば、退職したにもかかわらず退職先の会社のHPに自分がまだ従業員であるかのような記載がされている場合などが挙げられます。HPは社外の人に従業員を紹介する目的で掲載する目的であることが多いと思いますので、当該従業員の退職後はその必要がなくなる以上、基本的には削除すべきでしょう。仮にシステム上の問題で一定期間削除できない場合には、退職者に説明の上、短期間の掲載について同意を得ておきましょう。

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