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民法改正について

平成30年5月29日

6.その6、民法上の成人年齢の引き下げ

今回の民法大改正とは別に、民法上の成人年齢の引き下げ法案が早晩成立すると思われますので、今回はこの話題を取り上げさせて頂きます。従前は、成人年齢といえば、概ね満20歳で統一されていましたので、「成人といえば20歳」という考え方が浸透していたと思います。

日本で成人年齢が満20歳と定められたのは、明治9年の太政官布告が最初です。太政官布告というのは、まだ明治憲法も、各法律もなかった時代に、「太政官」という当時最高の役職の人が発した法令ですが、後にこれが民法にも引き継がれ、その後の各法律関係でも、この成人年齢が基準となり、「成人=満20歳」という考えが定着して行きました。

この考え方が揺らぎ始めたのは、実は、平成19年に成立した憲法改正に関する国民投票法で、投票権者が満18歳以上と定められたことによります。同法の附則の3条で、国政選挙に関する選挙権を有する年齢、民法上の成人年齢も再検討する旨が定められ、平成27年に選挙年齢が18歳に引き下げられたことは記憶に新しいところです。そして今回、民法上の成人年齢も引き下げられることになったわけです。

民法以外にも、成人年齢を問題にする法律は多々あります。例えば少年法の適用対象は20歳未満ですし、未成年者飲酒禁止法、同喫煙禁止法は満20歳未満のものの飲酒、喫煙を禁止しています。競馬、競輪、競艇、オートレースでも、それぞれ法律で未成年者がいわゆる馬券、舟券、車券を購入することを禁止しています。元々、成人年齢があらゆる法律関係を通じて統一されなければならないということはありませんし、少なくとも現在のところ、これらに対して成人年齢を20歳から18歳に引き下げようという動きはないようです。

そこで民法ですが、民法上の成人年齢が引き下げられるということがどういう意味を持つかといいますと、現行の条文上は、第4条が、「年齢20歳をもって、成年とする。」と定めています。その上で第5条1項は、未成年者が法律行為をするには法定代理人(普通は親権者)の同意を得なければならない旨を定め、同条2項で、これに反した場合は取り消すことができると定めています。法律行為の典型例は「契約」ですから、大雑把な言い方をすれば、民法では、何歳になれば単独で契約させても良いか(契約上の責任を取らせても良いか)、の観点から「何歳から成人か」を決めているわけです。

もう一つ民法が定めているのは、未成年の子は父母の親権に服するという規定(818条)です。具体的には、未成年者は親権者の定めた場所で暮らさなくてはいけません(821条)し、仕事をするにも親権者の許可が必要です(823条)。また、子供の財産管理も親権者が行います(824条)。

若い人は、若さにつけ込まれて妙な契約をさせられたり、あるいは自ら後先を考えずに無茶なことをすることもあるので、未成年者保護の観点からそのような規定を置いているのです。個別には、若くてもしっかりした人はおられるわけですが、保護するかしないかを年齢で線引きせざるを得ず、その基準が、従来は20歳だったということです。従って、成人年齢を18歳に下げるということは、今の世の中では、18歳になればもはやそういう保護は要らないという考え方に立つ、ということになります。

ただ、保護されなくなるのですから、弊害も生じ得ます。法制審議会においてもその点は議論されました。例えば、いわゆる悪徳商法の被害者数ですが、現状で未成年者は少なく、20歳を超えると急増するという統計結果があります。未成年者は、未成年だと言うだけの理由で契約を取り消せるので、取り消せなくなる若年成年で被害が現実化する傾向があるのです。また、合法的な金融商品でも、近時はハイリスク・ハイリターンの金融商品も多く、その構造は、社会経験を積んだ人でも、一度説明を聞いただけでは理解できないほど複雑化しています。

この状況で成人年齢を18歳に下げますと、18歳、19歳の世代で、いわゆる消費者被害が増加するのではないかという懸念があります。

あるいは両親が離婚している子供の場合、非監護親(実際に育てていない親)から、基本的には成人するまで「養育費」が支払われますが、現代では大学に行く人も多く、在学中に養育費が途切れます。そのため家事調停では、大学を卒業するまで養育費を支払うか否かが問題になったりします。成人の基準が18歳になった場合、基本的には子が大学に行く前に養育費が途切れ、大学への進学は基本的には自己責任ということになります。あるいは、概ね高校3年生で18歳になるわけですが、高校における進路指導は、現状では親権者を通じて行われています。これに親権者が関与しなくなった場合、これも自己責任になりますから、高校における進路指導はどうすべきか、といった問題も生じます。

もっとも、慣れ親しんだ制度が変更されれば、その制度を前提に構築されていた社会関係も一旦は崩れますので、一定の混乱や弊害は生じます。それは避けられないことですが、それを全て「成人になったのだから自己責任だ」で片付けたのでは、その混乱や弊害は拡大してしまいます。少なくとも18歳成人が根付くまでの当面の間、できるだけ上記のような混乱や弊害が生じないような法的対応、工夫も必要になると思われます。

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