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民法改正について

令和2年4月1日

16.危険負担

前回までの売買契約に関係して,今回は引渡し後の目的物の滅失等の危険移転(民法567条)につきご説明させていただきます。

危険の移転

民法567条1項は,売買の対象となった目的物が,買主に引き渡されたのちに,当事者双方の責めに帰することのできない事由により,滅失又は損傷した場合に,当該滅失又は損傷の危険を,売主買主のいずれが負担するのかについて規定しています。民法上,引渡しをもって,上記の目的物滅失等の危険は買主に移転すると考えられおり,以下規定を確認していきます。

条文の解説

民法567条1項

売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。

(1) 1項前段

上記の場合において,民法567条1項前段は,買主に履行の追完の請求,代金減額の請求,損害賠償の請求及び契約の解除を認めていません。これは,民法が,目的物の滅失・損傷に関する危険は,目的物の引渡をもって売主から買主に移転すると考えているためです。

(2) 1項後段

また,民法567条1項後段は,上記の場合において,買主が売主からの代金支払請求を拒むことができないと定めています。

これは,民法536条1項が「当事者双方の責めに帰することができない事由によって,債務を履行することができなくなったときは,債権者は,反対給付の履行を拒むことができる。」と規定していることから,同規定の通り処理すると,買主が売買代金の支払を拒否することができることとなり,引渡しにより買主に目的物の危険滅失等の移転があったとは言えないこととなります。そのため,民法567条1項後段は,民法536条1項の特則として,引渡後の場面においては,当事者双方に帰責性なく,目的物が滅失等したとしても,売主は買主に代金を請求できる旨を明文で定めています。

例外

売買の対象となった目的物が,買主に引き渡されたのちに,当事者双方の責めに帰することのできない事由により,滅失又は損傷した場合においても,引き渡された時点で目的物につき契約不適合や履行遅滞が認められた場合は,買主は567条1項の規定にかかわらず,債務不履行を理由として,売主に責任追求を行うことができます。

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